【王将戦第2局】菅井竜也八段の「話にならない」悪手で藤井聡太八冠が2連勝 思い出す副立会人の“珍事件”

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 1月20、21日に佐賀県上峰町の老舗料理店・大幸園で開かれた将棋の王将戦七番勝負第2局(主催・毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社)。藤井聡太八冠(21)に挑んだ菅井竜也八段(31)は開幕2連敗を喫した。対局直後のインタビューで菅井は「封じ手の少し前に敗着を指してしまいました。話にならない」と吐露した。勝った藤井は「王が安定した形で戦いを起こすことができた」などと淡々と話した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

問題の一手

 問題は46手目だった。後手番の菅井はいつものように「三間飛車」で藤井に挑む。45手目、藤井は「7四」に歩を進め、菅井の玉を正面から脅かしに来た。無難にこの歩を「同銀」として取るのが通常だが、そこで4分間考えた末に菅井は、何を思ったか自陣左の桂馬を「4五」に跳ねた。藤井陣の「5七」に成り込んで、金銀3枚で隅っこの玉をがっちり守っている藤井陣を崩すためのとっかかりにする算段。しかし、藤井は桂馬を簡単には成り込ませず、菅井陣に竜を作って玉を横から脅かす。

 この対局、振り飛車の菅井が穴熊に組むかと思ったら、居飛車の藤井が穴熊にし、菅井は美濃囲いにした。穴熊は最も固い駒組だが、組むまでに手間がかかり、それまでに攻められて潰されてしまうことも多い。美濃囲いは比較的早く組めるが、菅井は今回、玉の左に菱形に金銀4枚が並ぶ「ダイヤモンド美濃」と呼ばれる陣形を作った。

 1日目は午前中に42手まで進んだが、午後は藤井が160分の大長考をし、菅井も長考で応じるなどしてぱたりと止まり、9手しか進まなかった。しかし、その間に挑戦者の失着があったのだ。

 翌朝、立会人の小林健二九段(66)の手で開封された藤井の51手目の封じ手は、ABEMAで解説していた阿部健治郎七段(34)の予想通り「4六角」だった。これは菅井の「4五」の桂馬の成り込みを防ぐのが第一の目的だ。素人目に見ても、穴熊より美濃囲いが崩れるのが早いように思え、やはり好転することはなかった。藤井はその後、「これしかない」という一手にも慎重に時間をかけて間違わない。跳ねた桂馬は結局、藤井陣に成りこむ余裕もなく、最後まで全く働かずに終わってしまった。

菅井は心が折れていた?

 2日目、ABEMAで解説していた木村一基九段(50)は、昼食休憩前、「菅井さんの心が折れてしまったら投了もあり得ますね」と話した。

 実際、2日目の菅井は、しきりに盤から目をそらしたり、天井を見たり……集中できていないような印象だった。前日の大きすぎる失着で絶望していたのだろう。菅井は3時のおやつの時間にも何も注文しなかった。

 午後3時26分、藤井の113手目「8五金」を見ると、菅井は右手で盤に手をかざして投了した。感想戦を終えると、菅井は早々に会場を後にしたという。事実上、1日目に勝負はついていたようだ。「昨日は後悔して寝られなかったのでは」などと菅井を慮っていた木村九段は「第3局までは日数が少ないですが、菅井さんは気持ちと作戦を立て直してほしい。一つ勝てば変わってくる。でも3連敗になると厳しい」と話した。

 第3局は1月27、28日に島根県大田市の「国民宿舎さんべ荘」で行われる。菅井の故郷の岡山県と同じ中国地方で、ファンはここからの巻き返しを待望している。次こそ振り飛車の真骨頂を見せてほしい。

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