「小さな資源循環」で環境問題を解決する――前田瑶介(WOTA代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決】

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 能登半島地震の被災地で大活躍している、水再生装置を用いたシャワーセット。開発したのは日本のベンチャー企業・WOTAで、これまでにも各地の災害現場で活用されている。だが、これは同社の第一歩に過ぎない。CEOは水再生のように資源の利用効率を高める手法で、種々の環境問題の解決をもくろんでいた。

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佐藤 前田さんは世界初の「小規模分散型水循環システム」を開発し、「水業界の革命児」と呼ばれていますね。これは、どのようなものですか。

前田 水道のない場所での水利用を可能にするシステムです。その一つが「WOTA BOX」という可搬型のプロダクトです。RO(逆浸透)膜をはじめとする数種類のフィルターによるろ過、塩素殺菌、そして紫外線照射による殺菌で、排水の約98%を飲用レベルで再生させます。一連の過程はセンサーとアルゴリズムで制御し自動で行われ、大きさは、家庭用エアコンの室外機程度。浄水場などの10万分の1程度のサイズです。

佐藤 すでに災害現場で活用されているそうですね。

前田 プロトタイプ(試作品)を用いた本格運用としては、2018年の西日本豪雨の避難所からです。

佐藤 被災地から要請があったのですか。

前田 いえ、当時はまだ認知されていませんでしたから、まず私が新幹線で岡山県の倉敷まで行き、そこから歩いて避難所のあった倉敷市真備(まび)町の二万(にま)小学校と岡田小学校を訪問しました。そして「シャワーがあったら浴びたいですか」と聞いて回った。「当然、浴びたい」ということでしたので、すぐ本社にいるメンバーに連絡して翌朝、車でWOTA BOXの試作品を運び込みました。

佐藤 では、行政は関わっていない。

前田 情報の連携はありました。しかし、市役所の皆さんも多くの対応をされているので、リアルタイムで避難所の被害実態を把握するのが難しいことがあるのです。一方で、SNSだと、ここで困っているとか、何が必要かとか、ピンポイントのニーズが書き込まれていたりする。その情報から、この地域は断水している可能性が高い、避難所も水が使えないのではないかと分析しながら、必要な場所に届けていく。当初はそうしていました。

佐藤 現地では喜ばれたでしょう。

前田 シャワーなので直接表情を見るわけにはいきませんが、シャワーテントの中から、子供の笑い声やはしゃいだ声が聞こえてくるんですね。抑圧された生活を強いられている中、どんどん解放されて元気になっていくのが伝わってきました。

佐藤 現場に入って、その反応を直に見聞きするのはたいへん重要です。

前田 西日本豪雨では二つの避難所で3台の試作品しか出すことができず悔しい思いもしたのですが、手応えはありました。

佐藤 通常、シャワーは100リットルだと2人しか浴びられないところ、再利用で100人が浴びられると資料にありました。こうした装置は、災害が頻発する日本には、もっと前からあってもよさそうなものです。

前田 ええ、災害時も含め、水の問題を解決したくない人なんていません。それなのになぜ解決されずにきたかといえば、水問題の解決に参加するのが多くの人にとって難しいからだと思うんです。その原因は、水処理がこれまで主に建設業的なアプローチで提供されてきたことにあると考えています。

佐藤 災害なら、まず水道の復旧ということになります。

前田 水処理といえば、上下水道が一般的です。でもその仕組みは、数十年という期間に、数十億円かけて整備しなくてはならない。

佐藤 大規模事業になる。

前田 さらに地理的条件や設計のノウハウも必要ですから、水処理に参加したくても参加できる人は限られています。では、どうすればいいのか。これを解決するには、水処理を建設業型から製造業型にすればいいというのが、私どもの発想です。

佐藤 なるほど、水についても家電のような機械を作って、自分で処理できるようにするということですね。

前田 はい、水処理や水問題解決の標準化を行う。一定の条件さえ満たせば、誰でもどこでも水処理をできるようにする。

佐藤 それを技術的に解決した。

前田 ある程度の量の水は、どこにでもあるものです。でもその場所によって、さまざまなものが混じっていて水質は多種多様です。雨水は、初期降雨を除けば、どこもある程度似た水質です。人間の生活排水は有機物が中心です。一方で、地下水や表流水には、有機物も無機物も含まれており、その場所に応じたさまざまな水処理が必要となります。そこで私たちが水処理を標準化できる水源として選択したのが、雨水と人間の生活排水です。

佐藤 ただ、雨水はいつもあるわけではありませんね。

前田 その通りで、雨水は量的に時空間に偏在します。ですから雨水だけを頼りにすると、定常的な水利用に応えられない。あるいは巨大なタンクが必要になってくる。

佐藤 太陽光発電と一緒ですね。発電できない時には、バッテリーか他の電力源が必要になる。

前田 まさに。だから雨水で欠損分を補充しながら、基本的には生活排水の再生水を用いることによって、自己完結型のシステムを作りました。製造業型ですので、数が増えれば増えるほど安くなる。しかし、台数の少ない最初の段階ではそれなりのコストになる。だから当時、水問題解決の実績がない会社としては、最初はコストがハードルになりづらいシーンから始めるしかない。それが災害時や水道のない場所なんですね。

佐藤 いま、どのくらい売れているのですか。

前田 ほんとうは年間千台くらい売れてほしいのですが、現在は年間で100台くらいです。事業として成立はしていますが、災害対策という目標を考えると、日本にはおよそ1万台が必要です。逆に言うと、それだけあれば、南海トラフ地震で想定される断水人口3400万人に対応できる。でも年に100台だと、1万台まで100年かかります。それでは南海トラフ地震などが起きる前に整備を完了できない。それではプロダクト化した意味がない。だから年間千台を売り、向こう10年で日本における水の災害対策をやりきりたい。

佐藤 将来的には、上下水道の維持が難しくなった限界集落などでも使われるようになるでしょうね。コンパクトシティ化に一役買うようなことになるかもしれない。

前田 既に過疎集落などでは利用が始まっています。災害時にご一緒した自治体様や海外の政府の方々が、日常的な水処理の依頼をしてくださるようになってきました。2021年に、長野県軽井沢の一戸建て住宅で、上下水道に接続せずに台所、トイレ、入浴、手洗いなどの一通りの生活用水を賄う実証実験を成功させました。2023年、日本国内では東京都利島村という人口約300人の離島や愛媛県の3市と連携した実証実験を開始しています。2024年にはさらに導入を拡張し他の地域や水問題を抱える海外へ展開していきます。

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