【防災の日】薬剤師が教える、災害時に需要度が高い市販薬一覧

ドクター新潮 医療

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 9月1日は「防災の日」。2011年の東日本大震災、2014年の御嶽山噴火、2016年の熊本地震など、日本では毎年のように大規模な自然災害が発生しているが、近年は川の氾濫による被害も甚大で、九州地方を中心に各地で例年豪雨による水害が起こっている。最近では静岡県熱海市や長野県岡谷市での土石流も記憶に新しいだろう。

 防災グッズの中で、あまり注目はされないが実は重要なのが「薬」だ。しかし、いざという時、自分や家族にどんな薬が必要になるかを検討したことはあるだろうか。そこで、薬剤師として店頭で市販薬を販売している久里建人氏の著書『その病気、市販薬で治せます』の中から、災害時に需要度が高い市販薬の種類と、災害用の常備薬選びのポイントを以下、引用して紹介しよう。

 この記事を参考に、防災袋に入れておく薬を一度、見直してみてはいかがだろうか。

被災地で求められた「葛根湯」「胃腸薬」「下痢止め」

 市販薬は、地震などの災害時にも活用できます。自宅に薬箱があるだけで、心強さがまるで違うでしょう。いざ震災が起きたら入手しにくくなる薬や、避難所などで必要となる薬も、常備薬として持っておくといいかもしれません。

 これは私が2011年の東日本大震災時に、被災地で微力ながら救援のお手伝いをさせていただいた時のことを振り返って感じることでもあります。全国から集まった医師たちと避難所をまわり、お薬をお渡しする中で、時期的にも花粉症に悩まされる被災者が多かったことや、肩こりや腰痛などを訴える高齢者には葛根湯が多く渡されたことを記憶しています。

 避難所の集団生活では、他人のくしゃみにさえ互いに敏感になります。避難所で苦しい生活を強いられる上、花粉症にも悩まされるのはさぞ大変だろうと胸が痛みました。また、葛根湯は、被災者の方々が普段飲んでいる薬や持病といった医療従事者側が知りたい情報が得られにくい中で、「無難に使える薬」としてみるみる在庫が減っていきました。実際は、葛根湯にも交感神経を刺激する成分【エフェドリン】などが入っており、高齢者に使うことが正しいとは言い切れませんが、患者情報も物資も限られた状況では最大限の対応だったと思います。

 国内では、東日本大震災、阪神・淡路大震災(1995年)などの大地震の教訓から、災害時に必要な医療体制や医薬品供給の研究が進められてきました。

 過去の大規模災害で被災地支援を行った医療従事者らによって、被災地で必要だった薬として「胃腸薬」や「下痢止め」、「口内炎薬」などが報告されており、避難生活からくるストレスや栄養不足でお腹を壊したり、体調を崩したりする人が少なくないことがわかっています。厚労省の資料等をもとに災害時の医薬品供給についてまとめた報告書を参考に、被災後に避難所で需要が高いとされる薬のうち、市販薬で用意できるものをいくつか紹介します。

「水なしで飲める」「かさばらない」「安全に使える」

 これら全てを揃えて準備することは難しいでしょうが、イザという時の備えの参考にはなるでしょう。また、災害時に活用できる市販薬を研究した別の報告では、災害用薬を選ぶポイントとして、「服用時に多くの水を必要としない(水なしで飲める)」「かさばらない」「包装が小さい」などがあります。

 災害時の備えといっても、地震の規模や居住環境、本人の体質によって選ぶべき薬は異なり、「これが正解」というものはありません。薬局やドラッグストアで災害時の常備薬選びを相談するときは、まず自分が必要になりそうな薬のカテゴリー(便秘になりやすければ便秘薬、下痢になりやすければ下痢止めなど)を伝えた上で、水なしで飲めるタイプや、かさばらないもの、安全に使えるものを選んでもらうのも一手です。家族に持病のある人、子ども、高齢者がいる場合は特に、安心して飲める薬かどうかを確かめて用意したほうがよいでしょう。

救援に役立つ「お薬手帳」

 また、常備薬と合わせて重要なのが「お薬手帳」です。お薬手帳とは、病院で処方された薬などを記録する、自分だけの健康手帳のことです。東日本大震災では、お薬手帳が活躍した事例が数多く報告されています。いつも飲んでいる薬や健康状態が記録されているお薬手帳があれば、救援に駆けつけた医療従事者も的確な薬を支給することができるのです。日本薬剤師会は東日本大震災の1年後に、被災地でお薬手帳が役立った事例を医師や薬剤師から収集し、紹介しています。そこには、「薬の銘柄変更や成分変更の経過を医師・薬剤師が確認することができ、患者さんに最適の薬を選択し投与できたと思う」など、薬の供給に非常に役立ったという医療従事者側の声が寄せられています。普段通院している人は、常備薬だけでなくお薬手帳も用意しておくとよいでしょう。

デイリー新潮編集部

2021年9月1日掲載

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