東スポが「餃子」「からあげ」「ポテチ」を売る新聞社に…57歳「新社長」に聞く、読者を元気にさせるビジネスの秘訣

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 かつて奇抜な見出しの一面で世の話題をさらい部数を伸ばした「東京スポーツ」(以下、東スポ)。2024年4月で創刊64年を迎える東京スポーツ新聞社が、とにかく元気だという。もっとも、新聞の売上は年を追うごとに減少している。日本新聞協会の調査によると、一般紙とスポーツ紙を合わせた新聞の総発行部数は、2000年に5370万8831部あったが、22年には3084万6631万部と約2300万部も減っている。特に駅の売店やコンビニでの販売が主体のスポーツ紙や夕刊紙は、スマートフォンの普及の影響をもろに受けている。

 そんな中、同社は、本業以外の「東スポ餃子」「東スポからあげ」「東スポポテトチップス」といった食品事業に進出、順調に売上を伸ばしているというのだ。同業他社と過酷な競争の渦中にありながら、プロレス、競馬、芸能などを扱う“大衆娯楽夕刊紙の雄”と謳われた東スポが、一体なぜ食品事業に? かつては辣腕芸能記者、今は新規事業の仕掛人……そして2023年9月、6代目の社長に就任した平鍋幸治氏(57)に話をうかがった。

勝算のないビジネスはしない

――以前は取材現場でよくご一緒しましたが、今は会社全体を見る立場になられました。

「私自身、社長になるなんて考えたこともありませんでした。ただ、この大変な時代に、伝統ある東スポの舵取りを任されるのは、私に課せられた運命だと思っています」

――社長就任に際し、社員へどんなメッセージを送ったのでしょうか?

「三つありました。まず、前を向こう。楽しく明るくいこうと。作り手の我々が下を向いているようでは面白い紙面は作れませんから。二つ目は、経費を含めて萎縮するな。自信があるならお金を使うことにも躊躇するな。そして最後が、メディアの総合商社を目指せ。東スポブランドを生かしたビジネスモデル作りです。生き残るためにも、新たな発想、視点が大切であると」

――三つ目の「メディアの総合商社」になるための試金石が「東スポ餃子」だった?

「そうです。私が編集局長時代の2021年に発売しました。その後、『東スポからあげ』『東スポポテトチップス』『東スポレモンサワー』と展開しています。餃子を販売した時、太刀川恒夫会長(現・名誉会長)や酒井修前社長には事後報告になってしまって。会長からは『なんだ、中華料理屋でもやるのか?』と言われましたが、この事業で新聞やWEBの売上が伸ばせますからと説明しました。今まで東スポは紙面で読者を元気にさせてきましたが、それだけでは物足りない。コロナ禍だったこともあり、意気消沈している世の中に喝を入れて飲食店も救いたいと思ったのです」

――それにしても、あの東スポが食品事業とは、今でも驚きです。

「そうでしょうか。餃子を売っている新聞社なんて、いかにもウチらしいじゃないですか。誰もやっていないことをやることが大事です。餃子を売る前ですが、社内では希望退職者制度を導入し、何人かの社員が社を去りました。実売部数も減っており、社内の雰囲気は暗かった。それでも毎日、新聞を作らなければなりませんが、何か変化が欲しかった。そこで考えたのが食品事業です」

――くどいようですが、新聞社が餃子を売る……勝算はあったのでしょうか?

「当初は『何を考えているんだ』という批判的な意見が社内にもありました。ただ、私の性格でもあるんですが、周りを気にしないというか、自分がこうだと思ったらとにかく動きながら考える。特にこの事業では、絶対に損はしないという自信がありました。なぜかというと、在庫をウチが抱えないということです。いくら儲かっても在庫を抱えてしまうと、税務署はそれを資産とみなし、税金をかけてきます。なので、この事業では取引先の商社に在庫を持ってもらう代わりに、ウチがメディアであることの武器を最大限に駆使して、小さいながら広告を入れたり、PR記事を書いたり、芸能人を呼んでイベントをやったりと、販促に協力することにしたのです」

――そうしたビジネスモデルの考えは、どうやって培われたのですか?

「私は東スポに入社する前、夢グループの石田重廣社長(65)にお世話になった時期がありました。石田社長がよく言っていたのは『ビジネスは受注・発注』。受注した分をしっかり売り切ることだと。在庫を抱えると本当に儲からない。捨てるわけにもいかないし、税金もかかる。在庫は絶対にダメだ――この言葉が頭の片隅にありました。損をしないビジネスモデルなのだから、安心してほしい。本当は時間をかけて社員に理解してもらうべきだったのでしょうが、動き始めてしまっていたので後回しになってしまいました。反省しています」

――業績にはかなり影響したのですか?

「売上は順調ですが、正直に申し上げて、業績が飛躍的に向上したとか、儲かったと言えるところまではきていません。ただ、目に見える効果はありました。営業局の人に聞くと、取引先で必ず東スポ餃子の話題が出る。『それなら次に来るときに持ってきます』と、話のネタになるんです。結果、新規の広告が取れたり新しい取引先を開拓できたりしたという報告が来ています。また、これが一番大きいのですが、リクルーティングに大変な効果がありました。入社志望の学生が飛躍的に増えました。新聞としての東スポはもちろん知っているけれど、それ以上に、東スポって面白そうだな、入社したら何か新しいことができそうだと、そう思ってもらえたようです」

――その「面白いこと」にまだまだ続きはあるのでしょうか?

「食品で言うと、詳細はまだ表に出せないのですが、カップ麺と東スポ餃子をコラボした新商品を開発中です。2024年中の発売を目指しています。あと、23年のうちにやろうと思っていたのが“東スポクリニック”。これは男性専用のクリニックで、発毛から脱毛まで、男性の様々な悩みに対応するクリニックの準備を進めています。また、居酒屋など実店舗によるビジネスも話が来ています。こうしたお話をいただけるのも、『東スポ餃子』で一歩を踏み出したからこそだと思っています」

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