【ミャンマー】「1027作戦」で特殊詐欺グループを摘発  あまりに多かった“闇バイト”1万人の実態

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 2021年にクーデターを起こしたミャンマー国軍は、今も民主派や市民、少数民族に激しい弾圧を加えている。それに対抗し、2023年10月27日、3つの少数民族軍が連携し北部のシャン州を中心に一斉攻撃を開始した。1027作戦と呼ばれる。多くの国軍拠点を占拠することに成功し、この動きに呼応する形で、民主派の軍事組織やほかの少数民族軍が反撃をはじめた。

 それから約2ヵ月。シャン州北部は少数民族軍が優勢で、国軍兵士の投降も相次いでいる。1027作戦の舞台裏もようやくはっきりしてきたが、意外にも、鍵を握っていたのは特殊詐欺グループの存在だった。

カンボジアからミャンマーへ

 クーデター以降、国軍は反発する市民を中心にした民主派の摘発に乗り出した。民主派は対抗する軍事組織をつくり国軍に対抗していった。国軍は兵士だけではなく、警察も民主派摘発に使いはじめる。その結果、警察は本来の任務ができなくなり、ミャンマーは無法地帯の様相が色濃くなっていった。

 そこに目をつけたのが、中国人の特殊詐欺グループだった。日本同様、彼らは中国国内で犯行を繰り返していたが、取り締まりが厳しくなるなかで拠点を海外に置くようになる。日本ではカンボジアを拠点としたグループの存在も報じられたが、中国人グループはミャンマーでクーデターが起きたことに目をつけた。ミャンマーの警察能力が低化したのを利用して、中国と国境を接するミャンマーのシャン州に拠点を作っていくのだ。

 そこで暗躍したのが、130以上あるミャンマーの少数民族のひとつ、コーカン族の一部のグループだった。コーカン族は中国系民族で、人口は15万人ほど。中国国境に近いラオカイ県を中心に暮らしている。ラオカイには中国人向けのカジノがあり、中国とのパイプは太かった。彼らが特殊詐欺グループをミャンマーに招きいれることになった。ラオカイは瞬く間に特殊詐欺グループの拠点になっていった。彼らはコーカン族を通じて莫大な賄賂を国軍に渡す。そしてラオカイは摘発される心配がないエリアになっていく。特殊詐欺グループにしてみれば理想的な環境が整ったことになる。

 2023年の中国中央テレビの報道によると、中国の特殊詐欺の被害総額は約1.2億元、日本円にすると24億円にのぼっている。さらにインターネットを使った詐欺は日本円で1.4兆円にも膨らんでいるという報告もある。特殊詐欺グループは、ミャンマーという安全な拠点を得たことで一気に肥大していった可能性が高い。

台湾の若者を勧誘

 ラオカイを中心にした特殊詐欺グループの存在が取り沙汰されたのは、2022年はじめの台湾だった。中国のゼロコロナ政策のなかで人材の確保が難しくなった詐欺グループは、台湾に食指をのばす。高額の給料、つまり闇バイト情報が流れ、台湾の若者が勧誘されはじめる。当初はカンボジアの拠点に送られることが多かったが、やがてミャンマーに移っていく。

 台湾社会がその実態を知るのは、2022年3月、ひとりの女子大生が失踪したことだった。捜索の結果、その学生はミャンマーのラオカイにいることがわかってくるのだ(詳しくは記事「台湾で女子大生が失踪…国際犯罪組織「人蛇集團」の関与も? あまりに意外すぎる結末」を参照)。

 中国政府は特殊詐欺グループ摘発に動いていたが、ミャンマー領内のため簡単にはいかない。そこでミャンマー国軍に対し、詐欺グループの摘発を再三にわたって伝える。しかし国軍は動かなかった。詐欺グループから受け取る莫大な賄賂があったからだ。

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