造船各社の叡智を結集し日本発の環境船舶を造る――三島愼次郎(次世代環境船舶開発センター代表理事)【佐藤優の頂上対決】

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海運と連携する

佐藤 造船技術、それもここで行われている新燃料での船舶開発は、中国や韓国でも進んでいるのでしょうか。

三島 進んでいるでしょうね。ただなかなか情報がない。明かさないですから。

佐藤 情報収集が非常に大切になりますね。

三島 その通りです。IMOの動向や各国の動きを読んで、流れが決まったらすぐにそれに対応していかなければなりません。韓国、中国は一社が巨大で体力もありますから、すぐに対応できるんです。でも日本は規模の小さい会社が多く、それが難しい。だからGSCが必要になります。

佐藤 この変革期には、中国、韓国の動向を注視する必要がありますが、私は今後30年のスパンで見ると、中国脅威論はあまり意味がないと思っているんです。というのは、中国はもう人口が減り始めているんですね。しかも男女の出生数には10%ほどの差がある。女子が少ないのですが、これは女子の出産を抑制しない限り、あり得ない数字です。今後、人口は加速度的に減っていきます。

三島 なるほど、そう考えることもできますね。

佐藤 韓国も同様です。彼の国では1997年のIMFショックの後、国を立て直すために財閥を優遇して産業育成を図る一方、苛烈な競争社会を作り上げました。それが何を招いたかといえば、出生率の低下です。いま合計特殊出生率は0.78まで下がりました。このままだと、今世紀後半には北朝鮮に抜かれるのではないかと思います。

三島 私は、日本における造船は、中国や韓国と決定的に位置付けが違うと考えています。中国や韓国には、陸路がある。でも日本は島国です。それからもう一つ、日本には資源がない。このため資源を大量に輸入して製品化し、付加価値を高めて大量に輸出しなければ、日本経済は発展しない。現在もその9割以上が船舶で運ばれています。ですから船を造る産業は死活的に重要なのです。経済安全保障の観点からも日本はしっかり造船技術を維持し、技術開発でも先行しなければなりません。

佐藤 まったく同感です。

三島 その造船業が生き残るには、一にも二にも、お客さん、つまり海運企業としっかり連携していかなくてはならないと思っています。

佐藤 先ほどのお話だと、基本設計のあとに顧客である海運会社の要望を取り入れ、詳細設計をするということでしたね。

三島 ええ、日本の海運会社は輸出入の際、積み方や航路など、いかに効率的に荷物を運ぶかを一所懸命考えてきました。私は2008年に日本鋼管と日立造船の造船部門が合併したユニバーサル造船の社長になりましたが、その際、海運会社の社長とお話しして感動した。みなさん、「日本の海運は荷主に育ててもらった」とおっしゃるんです。荷主の厳しい要求に応えていろんな工夫をしてきたからこそ、現在があるというわけです。造船会社もその荷主の要望を海運会社と一体となって受け止め、船作りに取り組んでいかなければいけません。それがさらに技術を発展させていくポイントだと思います。

佐藤 日本の海運業は、コロナ禍で物流が滞ったことで船賃が高騰し、各社とも最高益を出しました。日本郵船などは2年連続で利益が1兆円を超えています。

三島 非常に喜ばしいことです。日本の海運各社はこれまで非常に苦労されてきた。船舶の供給過剰で正常な運賃が取れず、統合・合併を重ねながらここまできたわけです。やはり海運会社が十分利益を出していないと、発注もきませんし、新しい船にチャレンジする機運にもならない。ですからいまは新しい船を作る好機です。

佐藤 そこでGSCの役割が重要になる。

三島 はい。「フォア・ザ・ジャパン」の精神で、日本の造船業界を盛り立てていきたいと思います。

三島愼次郎(みしましんじろう) 次世代環境船舶開発センター代表理事
1949年大阪府生まれ。大阪大学基礎工学部機械工学科卒。73年日本鋼管入社。船舶・海洋技術部長などを経て2000年に日立造船の造船部門との合併を担当。新たに誕生したユニバーサル造船で経営企画部長となり08年に社長。13年にはIHIの子会社と合併しジャパンマリンユナイテッド社長に就任。18年に特別顧問。22年より現職。

週刊新潮 2023年12月28日号掲載

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