造船各社の叡智を結集し日本発の環境船舶を造る――三島愼次郎(次世代環境船舶開発センター代表理事)【佐藤優の頂上対決】

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 2050年カーボンニュートラルに向け、自動車と同じように船舶もCO2排出削減を迫られている。だが船舶には船舶固有の問題がある。莫大な量になる代替燃料の確保と船体構造の更新だ。これらに対処するため次世代環境船舶開発センターは設立されたが、新型船の開発はいま、どこまで進んでいるか。

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佐藤 三島さんは長らく日本の造船大手「ジャパンマリンユナイテッド」の社長を務められ、昨年4月には、2020年10月に設立された造船各社からなる次世代環境船舶開発センター(GSC)の代表理事に就任されました。どうしていま、こうした組織が必要なのでしょうか。

三島 現在、造船や海運など海事産業は大きな変革期にあります。地球温暖化への対応やデジタル技術の導入など業界全体で取り組むべきことが多々あり、なかでも最大の課題は、カーボンゼロへ向けて新しいコンセプトの船を造ることです。

佐藤 菅義偉総理大臣(当時)が2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにすると表明したのも、2020年10月の所信表明演説でした。時を同じくして動き始めたわけですね。

三島 地球温暖化の問題が叫ばれ始めたのは1980年代のことですが、それが2000年になる前くらいから急速にクローズアップされ、ここ十数年は、海事産業でも最重要課題となっていました。

佐藤 国際的な圧力も非常に強い。

三島 日本は国際海事機関(IMO)に加盟しており、ここが定める国際的なルールに拘束されます。IMOは2018年に温室効果ガス削減戦略を採択し、2050年までに2008年比50%にするという目標を打ち出しました。さらに今年7月には同年ごろに排出量ゼロにするとした。また、2040年に70~80%、2030年に20~30%削減することも目標として定められました。

佐藤 動きが加速している。

三島 世界を結ぶ船舶のほとんどは、重油をたいて走っています。ですからこれを新しい燃料に変えていかなければならないんですね。

佐藤 発電や自動車の燃料も同じですが、水素やアンモニア、メタノールなどが次世代の燃料として挙げられています。

三島 その通りです。ただし燃料を変えるといってもそう簡単にはいきません。まずどの燃料が一番効率的かという問題がありますし、エンジンを変える必要もあります。また、液化天然ガス(LNG)やメタノール、アンモニアに変えた場合、重油に比べて、その容積が大きくなるんですね。

佐藤 どのくらい変わりますか。

三島 重油と同じエネルギーを出すには、LNGで1.7倍、メタノールやアンモニアになると2.5倍から3倍のボリュームが必要になります。

佐藤 船の大部分がタンクに取られてしまう。

三島 ええ、モノを運ぶはずが、燃料だけで結構いっぱいになってしまいます。そうならないよう、燃料タンクをどこに置くか、そしてそれにともない、船舶をどんな形にするかも考えていかなければなりません。

佐藤 なるほど、船型自体を変えるとなると、発想の大幅な転換が必要になりますね。

三島 さらに燃料の量やサプライチェーン、コストなど、課題はたくさんあります。それらを一社で対応していくのには限界がある。そこで個別企業の枠を超えて、最先端船舶の開発・設計、船の使用環境や国際規制の調査などを行うために、国内造船有志によって設立されたのがこの組織です。

佐藤 何社くらいが参加しているのですか。

三島 現在は、建造量1位の今治造船や私のいたジャパンマリンユナイテッドなど、主だった造船会社10社と日本海事協会で構成されています。

佐藤 各社から出向者が来ているのですね。

三島 ええ、10社それぞれから出向者がやってきて、ここで2、3年は一緒に次世代船舶開発に取り組みます。そうすると、横のつながりができる。

佐藤 もっとも参加各社は、互いに競争相手という面もありますね。

三島 もちろんです。ただ代替燃料をどうするか、エンジン、船体などをどんな仕様にするのかなどのベースの部分では、各社が同じ課題を抱えています。ここでそれを考えればいい。いま海事業界は、不確定要素が多いなかで、状況を見ながら臨機応変に対応できるスピードとパワーが求められています。それには連携して対処したほうがいいのです。

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