なぜ東京でだけ「内申書批判」が過熱するのか 専門家が明かす“3つの特別な事情”

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 近ごろ「内申書(調査書)」に関する報道が目立っているのをご存知だろうか。特に公立高校の入試で、評価基準の一つとして内申書が活用されていることに活発な議論が行われている。11月には東京都議会でも内申書の問題点を指摘する質問が行われた。XなどSNS上の声をチェックすると、多くの保護者や生徒が内申書に不安を抱いているように見える。

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 11月、都議会の文教委員会で「都立高校の入試で実技4科目(音楽、美術、保健体育、技術・家庭)の内申点が2倍になるという評価基準は大きな観点で検討が必要」との質問が行われ、都立学校教育部長が「今後、様々な関係者から意見を聞いていく」と答弁した。

 12月3日にはAbema TIMESが「受験に必要?入試のブラックボックス? 『内申書』の是非」との記事を配信。14日現在、YAHOO!ニュースのコメント欄には850件を超える意見が投稿されており、反響の大きさを窺わせた。

 ちなみに、Abema TIMESは11月27日と12月2日にも内申書に関する記事を配信しており、精力的な報道姿勢を見せた。担当記者が言う。

「他にも読売新聞が『部活をやっていないと内申点が悪くなるのか』という噂の真偽を確かめる調査報道を行いましたし、東京新聞も『内申書や高校受験を廃止してほしい』と高校生が文部科学省に要望したことを伝えました」

 文教委員会で内申書に関する質問を行った都議は、質疑応答の内容をXで報告。たちまち「内申点は多様性の妨げとなる時代遅れの制度」といった賛同を示す意見がリポストで投稿された。

 このような動きが相次ぐと、まるで広範な層が内申書に関心を持ち、SNSなどを通じて議論しているように思えてしまう。

地方と東京の違い

 だが、『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮新書)などの著作がある教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は「内申書を巡って激しい議論が起きているのは、東京以外にはあまり聞いたことがありません」と指摘する。

 東京都の人口は約1400万人。東北地方は6県を合計して約870万人、北陸地方は3県で約295万人。合計すると約1165万人となり、どれだけ東京が巨大な自治体か改めて実感させられる。

 都立高入試は「ひとつの自治体に住む中学3年生が主な対象」だとはいえ、都の総人口は9県の人口を足した数をはるかに上回る。受験生がとんでもない母数に達することは言うまでもない。

 母数が多いと、特に上位校で競争が激化する。ちょっとした配点が、合否の結果を変えてしまう。そのため受験生だけでなく保護者も、入試制度に高い関心を持つ傾向が強い。さらにSNSの発達により、議論が生じやすい環境が整ってしまった。

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