「もの忘れはむしろ健全」「スマホに頼っても大丈夫」 脳寿命を延ばす「忘却システム」とは

ドクター新潮 ライフ

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タレントの名前を思い出せなくても…

 脳の容量は無限ではありません。ワクワクし、覚えておく必要のある情報が入ってきた時に、Rac1が積極的に「古くて不要な記憶」を壊し、「新しくて必要な情報」を記憶する容量を確保していると考えられます。言ってみれば、「積極的に忘れるための不断の努力」の結果、重要な記憶がしっかりと維持されているのです。

 冒頭に記したようなもの忘れは、誤解を恐れずに言えば、まさに「古くて不要な記憶」が失われる状態です。タレントの名前を思い出せなくても、生きていく上では何の問題もありません。そんなことを記憶しておいて、「新しくて必要な情報」を覚えられないのでは本末転倒です。そうならないために、Rac1が働いてくれる。脳は非常にうまくできているわけです。

 このように脳はあえて積極的な忘却を行っているのですから、もの忘れする自分を情けなく感じる必要はありません。むしろ、忘れることによって、年を重ねても新しい情報を記憶するというチャレンジをしているといえるのです。記憶とは固定されているのではなく、常に流れていくものであり、忘れるのが正常なのです。

忘れることは悪いこと?

 ましてや、現代は「1億総スマホ時代」です。日々押し寄せる雑多な情報は、わざわざ容量が有限である脳を使って記憶しておくべきものとはいえないでしょう。スマホを使って調べれば簡単に分かる。自分がいつ何をしたかも、必要なのだとしたらスマホのアプリに記録しておけばどんな時でも“思い出す”ことができます。そうした便利なテクノロジーがある時代に、ちょっとしたもの忘れの一種、すなわち脳の極めて有意義な機能である積極的忘却に思い悩むのはストレスでしかありません。忘れることは悪いことであるという“常識”を考え直す時代だと私は思うのです。

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