「中堅企業」を支援して日本の「産業」を作り直す――木原正裕(みずほフィナンシャルグループ執行役社長 グループCEO)【佐藤優の頂上対決】

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事業成長支援室

佐藤 ただ、それらはいままでやってきたことでもありますね。

木原 それはそうです。

佐藤 従来のやり方ではうまくいかなくなった。それは何が原因だと考えていますか。

木原 一つには、日本の経済界全体がリスクを取りにいかなかったことがあると思います。株主資本主義が叫ばれ、時価総額やROE(自己資本利益率)を上げなければならなくなった時、真っ先に行われたのが、コストカットでした。でもそれだけでは、企業が成長できないことが分かってきた。

佐藤 それは消極的な対応に過ぎませんからね。

木原 ですからいま、多くの企業が自社のポートフォリオのどこに強みがあり、どこが弱点かを見極めて、強みはさらに伸ばす一方、弱点は補い、あるいは切り出して他社にやってもらうという作業を行っています。

佐藤 確かにこの対談でも、多くの会社でポートフォリオの見直しが話題になりました。

木原 この30年間は、それがあまりなかったのです。また各社とも海外に進出していきましたが、多くの商品がコモディティ化(機能や品質で差がなくなること)してしまい、競争が激しくなった。ここでも従来のやり方が行き詰まっています。

佐藤 デジタル技術によって、コモディティ化はますます加速しています。

木原 その中で、金融機関も対応できていなかった部分があるんですね。顧客企業のバランスシートを見て、ここは信用力がある、ここにはお金を貸せる、と貸せるところに貸すだけで終わってしまっていた。つまり、事業をクリエイティブに考えてこなかった。

佐藤 金融は国家の血流で、それに伴うインテリジェンスがあります。メガバンクの情報は、質も量も地銀や信用金庫とは圧倒的な差がある。それを生かした仕事になっていなかったわけですね。

木原 はい。その状態から、自らリスクを取って主体的に融資をしていくよう転換し、産業を作っていかなければならない。そのためには、技術などを目利きする能力を身に付け、必要としている場所とつなげていく。それで今年4月、銀行に中堅企業専門の部署である「事業成長支援室」を新設しました。

佐藤 コンサルティング会社の役割も担うわけですね。

木原 ええ。僭越ではあるけれど、われわれ金融サイドから、こんな成長戦略があるんじゃないか、こういうことができるのではないかという提案を作り、中堅企業のCEOやCFOと議論していくのです。

佐藤 進捗具合はいかがですか。

木原 これまで主に都内の支店が担っていた、比較的規模の大きいお取引先企業を担当する首都圏営業部1~6部を創設しました。そして証券会社や信託銀行も使いながら、どういうビジネスができるか、どんなソリューションがあるかを提案していった。そうしたら、まだ半年ですが、収益も上がってきた。そこで現在は、中規模の企業でも同じことができないかと考えています。

佐藤 コンサルよりもコーチに近いかもしれないですね。伴走してゴールまで付き合ってくれる。

木原 そうです。やるとなったら、とことん付き合います。

佐藤 スタートアップへの支援・育成にも力を入れていますね。

木原 こちらは2016年から「M's Salon」という会員制のサービスを始めました。急成長を目指すイノベーション企業に対し、必要不可欠な経営知識、事業遂行ノウハウ、ビジネス拡大機会や資金調達サポートなどを提供しています。

佐藤 どのくらいの会員がいるのですか。

木原 約4千社です。グループのネットワークを使い、スタートアップ同士や大企業とのマッチングも行っています。

佐藤 みずほというと、よく「銀信証(銀行、信託、証券)連携」が強みといわれますね。

木原 銀行の融資はもちろん、証券にはDCM(債券資本市場での資金調達)やECM(株式発行での資金調達)、あるいはM&A(企業の合併・買収)といったプロダクツがあり、信託銀行には不動産や年金などの運用プランがあります。これらをつなげていく。例えばM&Aで事業成長したいという際の資金調達には、融資や不動産の売却などのさまざまなプランが用意できます。

佐藤 横のつながりが強いのはなぜですか。

木原 弊社は合併後、「One MIZUHO」を掲げて、さまざまな部門を時間をかけ融合させてきました。それが十分に達成されたということだと思います。ただ、いまは他の金融グループも同じようなことを始めていますので、銀信証に「みずほリサーチ&テクノロジーズ」という部門をつなげて環境分野のコンサルタント業務を行うとか、「みずほ第一フィナンシャルテクノロジー」と一緒にデータアナリティクス(情報分析)をやるとか、幅広くお客様の課題に向き合えるようにしています。今年5月には弊社も外部環境やお客様・社会の変化を踏まえ、企業理念を再定義しました。新たに「ともに挑む。ともに実る。」をブランドスローガンとして掲げています。

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