「中堅企業」を支援して日本の「産業」を作り直す――木原正裕(みずほフィナンシャルグループ執行役社長 グループCEO)【佐藤優の頂上対決】

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混迷する世界の中で

佐藤 海外はいかがですか。

木原 海外もいま一度、国や地域も含めどこに経営資源を充当するか、考えているところです。いまのアメリカは、とにかく肥沃なマーケットですから注力する。ただ、そのアメリカも含め、すべての地域にまだ低採算のアセットがあるため、全地域で削減を進めつつ、特に米州、APAC(アジア太平洋)の成長領域にアセットをシフトさせていきます。

佐藤 世界情勢は非常に流動的で、捉えにくくなっています。世界のエリートが集まるダボス会議では、2018年と2020年にイスラエルの史学者ユヴァル・ノア・ハラリが基調報告をしました。そこで彼は、この世界では飢餓と疫病と戦争を克服しつつあると述べましたが、疫病と戦争の二つに関しては完全に間違いで、飢餓についてもアフリカや中東では危惧されています。

木原 ビジネスとして、どこの国と付き合っていくかを真剣に考えなければならない時期にきたと思いますね。日本の企業を巻き込みながらやっていくわけですから、細心の注意を払わなくてはならない。今後はアジアやインドから、アフリカも視野に入れて考えなくてはいけなくなるかもしれないですね。

佐藤 アフリカはフランスの影響力が大きく低下しましたから、かなり変わっていくと思います。

木原 そうした世界の動きを見るにあたって、佐藤さんと手嶋龍一さんの対談『ウクライナ戦争の嘘』は、たいへん示唆に富む本でした。主眼は、西側の視点だけで世界を見てはいけないということですね。われわれのビジネスはやはりまだまだ西側の目で物事を見ているんです。ただ、それだけでは限界がある。

佐藤 現在のウクライナでの戦争でいえば、GDPで韓国並みのロシアが西側連合とぶつかって、どうして経済破綻しないで持ちこたえられているか、ということです。アメリカのGDPは25兆ドルで、ロシアの10倍以上です。でもアメリカの2割は医療費なんです。それとロシアの小麦や鉄鋼で積み上げたGDPは、根本的に意味が違います。そしてロシアにはモノを作る力がある。

木原 そうした視点は重要ですね。

佐藤 そこは木原さんのおっしゃる産業を作ることにも大きく関係してきます。

木原 日本の国力は下がってきていると思います。ただわれわれも含め、日本が持っている力をきちんと評価してきたかといえば、そうではない。先にもお話ししましたが、現に中堅、中小企業で海外に打って出られるところはたくさんあると思いますし、スタートアップも数多く出てきている。また大学発の基礎研究でも面白いものがたくさんあります。だからそれをもっと海外に紹介していくことを、金融機関としてやらなくてはならない。それによってわれわれのケーパビリティー(能力)も上がっていくと思います。

佐藤 それは頼もしいですね。

木原 今年は、みずほの源流となる第一国立銀行創設から150周年です。それを作った渋沢栄一は殖産興業をけん引し、またもう一つの源流である安田銀行の安田善次郎は数々の経営難の銀行を救済しました。そして私がいた日本興業銀行は、戦後の産業再編を担ってきました。こうした素晴らしいDNAは、現在もグループ内にあります。それらを継承しつつ、次のあるべきみずほの姿を作っていきたいと考えています。

木原正裕(きはらまさひろ) みずほフィナンシャルグループ執行役社長 グループCEO
1965年東京生まれ。一橋大学法学部卒。89年日本興業銀行入。95年米デューク大学ロースクール修了。2017年みずほ証券執行役員・リスク統括部長となり18年同財務企画部長、20年みずほ証券とみずほフィナンシャルグループの常務執行役員、21年グループ執行役常務などを経て22年執行役社長グループCEO(のち取締役兼務)。

週刊新潮 2023年11月30日号掲載

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