日韓友好で支持率アップ? 岸田首相が気付いていない、空中分解する「尹錫悦政権」の現在

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政策はいいが、政治が下手

――尹錫悦大統領は自分の首を絞めていますね。

鈴置:モラロジー研究所の西岡力教授によると保守の長老ジャーナリスト、趙甲済(チョ・カプチェ)氏が「政策はいいが、政治が下手だ」と嘆いているそうです。

 尹錫悦大統領は文在寅政権下で崩壊の危機に瀕した米韓同盟を復元。日本との関係も改善して第2次朝鮮戦争に備えました。安全保障に危機感を高めていた人々からは一斉に安堵のため息が漏れました。世論調査で政権を評価する理由の1位に常に「外交」があがるのを見ても、それが分かります。

 ところが「政治が下手」でして、自分を支持してくれた若者や保守の牙城を敵に回すようなことを平気でやるのです。世論調査では評価しない理由の上位に「独断的」や「対話不足」が並びます。

――なぜ、「政治が下手」なのでしょう。

鈴置:大統領選挙に出馬するまで、政治経験が全くなかったからでしょう。検事のノリで物事を「正邪」で判断する。清濁併せ呑んで多数派を形成し、政策を実現するという現実策がとれない。

 政界に同志も腹心の部下が全くいなかったため、大統領選挙で自分を担いだ人の意見に引っ張られてしまう。保守政党を支えてきた洪準杓氏や李俊錫氏への異様な仕打ちも、にわか造りの側近による陰謀劇と見る向きが多いのです。

攻守逆転で地滑り的敗北

――それでは保守層の支持も固められませんね。

鈴置:韓国ギャラップの調査では2022年7月第1週以降、「よくやっている」を「よくやっていない」が上回るようになり、今に至るまでそれが続いています。前者は20―30%台を推移する一方、後者は50%台を続けています。時に60%台に乗ることもあります。常にダブルスコアに近いのです。

 ただ、尹錫悦政権は内部抗争の危険をはらみながらも、左派の「共に民主党」を攻撃することで何とか求心力を維持してきた。ところが2023年秋になってその作戦が蹉跌したのです。

韓国の“持病”内輪もめが始まった ハンストで抗った野党代表、『監獄送り』を狙う尹錫悦」で解説したように、尹錫悦政権は疑惑のデパートたる李在明(イ・ジェミョン)「共に民主党」代表の収監を図ったのですが、左派の牙城である裁判所が認めなかった。

 それに江西区長の補欠選敗北が追い打ちをかけました。尹錫悦派の党指導部に対し、反尹錫悦派が敗北の責任を取るよう求めたものの無視され、党を割る姿勢を打ち出したからです。分裂の危機に直面した「国民の力」は、一気に劣勢に追い込まれました。

 韓国の選挙はとにかくムードに左右されます。無党派層は勝ち馬に乗る傾向が強い。保守の分裂状態が続けば、総選挙で地滑り的大敗を被る可能性が高いのです。

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