私権制限と憲法違反を平気でやれる国・ニッポン 専門家やメディアの言うことを信奉して異端を排除するお国柄(中川淳一郎)

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 ハロウィンに仮装した人が大挙し、大酒をかっくらう場所といえば渋谷でしたが、今年は様相が違った。渋谷区の長谷部健区長が、渋谷に来ないよう呼びかけ、当日は警官隊が厳重な警戒にあたりました。

 コロナ騒動を経て、首長や役所の「お願い」「要請」が非常に簡単に発出され、人々の自由が侵害されても「まぁ、お願いされたから仕方ないか」といった空気感が完成したようにも感じられます。何しろ、コロナ初期の頃は神奈川方面から静岡県に入ったら大勢の役人が「今は来ないで」と書かれたのぼりを出して都会から来た人を追い返そうとしていたのですから。

 他にもコロナでは多数のお願いがされ、あまりに素直な日本人はそれに疑問を抱くことなく唯々諾々と従い、そして従わない人間を反社会的勢力扱いし、迫害しました。まさか21世紀に入ってから20年もたって、封建時代のようなことが当たり前に行われる日が来るとは思いませんでしたよ。

 県をまたぐ移動はするな、家にいろ、マスクしろ、飲み会は4人以下で午後8時までのMAX2時間、ワクチン打て、学校はしばらく休み、給食は14分59秒以内で黙って食え、高齢者に会うな、病院や高齢施設の面会は不可能、家族が亡くなる前にみとれず会えた時は遺骨、スポーツイベントは無観客開催、伝統ある祭りは中止、飲食店は営業停止……ありとあらゆる私権制限が、「感染対策」「大切な人を守る」「うつらない、うつさない」の大義名分の下、発出されたのです。

 中でもひどかったのが、コロナ陽性者が出産する時は帝王切開にしろ、というものです。一体科学的根拠がどこにあるのだか分からない。なぜ自然分娩だと施術者がコロナに感染し、帝王切開であればしないのかの根拠も示されぬまま、望まぬ出産方法を強制された妊婦がいたのでした。

 ワクチンもそうです。初期の頃は基礎疾患のある人と高齢者と医療従事者から打ちました。その後小池百合子都知事が「50代問題」と言い出し、「40代・50代でも重症化する」と接種を猛烈に推し始め、その後は雪崩のごとく若者→子供→6カ月以上の赤ちゃんにまでワクチンを推奨。

 ここで言う「推奨」は一部の組織では「強制」になりました。看護学校の生徒などはワクチンを規定回数打っていないと研修に出られなかったし、私の知り合いの医療従事者の職場は日々ワクチンを打つよう命令する上司が存在。結局その部下数名が仕事を辞めざるを得なかったのです。

 岸田文雄首相は2021年11月、オミクロン株が出た時、迅速に水際対策の強化を決定し、大絶賛されました。これも外国人の自由な渡航を妨げる命令でした。他の国が渡航規制を解除しても日本は延々続ける。挙句の果てには2022年、2カ月以上にわたって世界一の陽性者数を達成する国になる始末。それでも入国規制はやめなかった。

 日本という国はこうも簡単に私権制限と憲法違反を平気でやれる国なんですよ。理由は、国民がお上と専門家とメディアの言うことが絶対だと信じ、相互監視の下、異端を糾弾する土壌があるから。

 美しい国ですね、ニッポン。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年11月16日号掲載

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