天才・堀内恒夫がV9時代の日本シリーズ“奇策合戦”を明かす
「堀内は天才やね」
7連覇の懸かった71年の日本シリーズも巨人は不利を予想されていた。相手は投打ともに充実している阪急。中でも怖い存在が快足・福本だった。その福本が脱帽する。
「堀内は天才やね。左肩を開いたまま、打者に球威のある球を投げた」
これを堀内に尋ねると、こともなげに言った。
「簡単なことだよ。みんな右足に体重を乗せようとして肩を戻すけど、あくまで重心は体の真ん中。それに、左足を上げたら勝手に重心は右足に乗るでしょ。だから左肩を開いたままで球威のあるボールが投げられる」
なるほど、言われてみれば簡単なカラクリ。だが、案外気付かないし、できない。真理を感覚的に体感し、実践できるのが「天才」と呼ばれるゆえんなのだろう。
「堀内さんは、投手陣がみんなでセカンドけん制の練習をしている時も、マウンド脇に寝転んでやろうとしないんだ」
と教えてくれたのは、その71年に1軍入りし、新人王に輝いた関本四十四だ。
「堀内さんは、『二塁けん制なんて練習しなくてもできるよ。いざという時、一発で決めるのがプロだろ』って。悔しいけど、堀内さんは練習しなくてもできた」
巨人9連覇の秘密
その関本から興味深い話を聞いた。実はそこにも、巨人が9連覇を飾り、強いといわれた阪急を幾度も返り討ちにした秘密の一端が浮かび上がって見える。それは、「信頼と抜てき」「大胆と細心の変わり身」とでも表現できる、川上と阪急の監督・西本幸雄の違いだ。
「初戦を堀内さんで勝った次の第2戦、先発は高橋一三さんの予定でした。オレは第3戦の先発。二人ともそのつもりで球場に行くバスに乗り込んだ。そしたらオレがマネジャーに呼ばれて、監督のところに行けと。すると川上監督が、『関本、先発して1回だけ投げろ』って。『えっ?』と聞いたら、『昨日、阪急は1番に偵察メンバーを入れてきた。お前が先発すれば阪急ベンチは混乱するだろ』って」
不思議なことに、巨人が最も恐れている「1番福本」を西本監督は固定していなかった。第1戦では1番に「センター八田正」を入れている。そして、先発が右の堀内と見るやすぐ福本を守備につかせた。第2戦も同じ手で来るなら、まずは右の関本を投げさせて阪急をかく乱しようと川上は考えた。案の定、阪急はまた八田を偵察メンバーに使い、右の関本の先発を知ると福本をセンターに入れた。が、巨人が2回からすぐ左腕の高橋一を投入すると、4回にはすぐ右の正垣泰祐を代打に送っている。まだ入団3年目とはいえ、すでに2年連続盗塁王、ホームランも10本、打点45、打率.277と立派な成績を残している福本を西本監督は信頼しきっていなかったのか。
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