自動運転の時代をセンシング技術で支える――村上雅洋(日清紡HD社長)【佐藤優の頂上対決】

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リアルを電子化する

佐藤 もう一つの主力事業であるマイクロデバイスとは、どんな用途のものですか。

村上 主にアナログ半導体です。無線・通信のワイヤレスコミュニケーションには、アナログ半導体が不可欠です。半導体にはデジタル半導体とアナログ半導体があり、前者は電子信号を処理するものですが、後者はセンサーで取り込んだ音や光、温度などのアナログ信号をデジタルに変換する半導体です。この世界はアナログですから、リアルとつながるには、アナログ半導体が不可欠です。私どもはその設計から製造までを手がけています。

佐藤 なるほど、センサーを支える技術なのですね。

村上 数多くの事業があって、何をやっているかわからないけれども、事業がバラバラにあるわけではないんですよ(笑)。

佐藤 確かにこの分野は、これから大きな需要が見込まれますね。

村上 もっとも自動運転へとすぐに切り替わるわけでもありません。当面、センサーは環境軸で事業を展開していきます。

佐藤 環境軸というのは何ですか。

村上 主に防災・減災ですね。今年も台風や線状降水帯による洪水などの水害が起きています。よくテレビで映像が流れますけれども、大きな川には国土交通省が監視カメラを設置し、情報が取れている。でも小さな川は、同じように氾濫する危険があり、実際に洪水も起きていますが、情報がない。私どもがいま行っているのは、小さな川の上にドローンを飛ばし、さまざまなデータを集めて、どこへ避難すればいいかをお知らせする仕組み作りです。

佐藤 災害時は無線が大活躍しますからね。私は小学生から中学生にかけてアマチュア無線をやっていましたが、通信内容は趣味の範囲に限定されています。ただ、災害時においては、非常通信として災害情報や救助救援の情報のやり取りができる。

村上 私どもはドローンが安全運航できる仕組みを作り、すでに実証実験も終わっています。

佐藤 もともと無線・通信事業にはどんな淵源があるのですか。

村上 傘下に日本無線という会社があります。創設者の木村駿吉は日露戦争の日本海海戦で使われた三六式無線電信機を開発した人物です。この会社は日本最初の船舶用GPS受信機や、世界初のカーナビ向け車載用GPS受信機も開発しています。日清紡は同社へ1955年から経営陣を派遣し、2010年に子会社化しました。

佐藤 これも非常に歴史ある会社なのですね。

村上 この分野では、船の自律航行も手がけています。クラウド上へ電子海図と各地の気象レーダーから得た気象、海象情報をあげて、安全かつ省エネとなる最適な航路を導き出し、船に伝える。大型船ならどこかへ行って帰ると、何千万円といった費用がかかりますから、それが軽減できる。

佐藤 ひょっとして、気象レーダーも手がけられているのですか。

村上 日本で気象レーダーを最初に開発したのは、この会社です。

佐藤 では日本各地にある気象レーダーも日本無線製なのですか。

村上 そうです。ただ運営しているのは気象庁です。そこから得たデータを「J-マリンクラウド」と呼んでいるクラウド上にまとめて、航路を解析し、船に送るわけです。

佐藤 船の自律航行は自動車の自動運転より早くできそうですが、これはいつくらいに実現しそうですか。

村上 2025年に実証実験を行うことになっています。社会実装できるのは、それから1年か2年か、もう少しかかるかもしれませんね。

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