ダメ出ししてもらえる中年男性は幸せ? ドラマ「たそがれ優作」が描く脇役俳優の地道な日常

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「シュッとしてる」という言葉が最もしっくりくる俳優。インテリ役も多いが、脂肪分が少ない顔で瞬時に険を作れるせいか、反社的な悪役も完璧にこなす。爬虫類系とも塩顔ともいえるが、姿勢がよくて脚も長く、スタイルがいい。全体的に品があり、立ち姿には華もある。ただし、品も華も気配すらも消すことができる。二十数年の間、ずっとドラマに出ている印象がある。連ドラ初主演が2021年の「ムショぼけ」(ABC)だったと知って驚いた。テレビ局のキャスティング担当の目は節穴。逆にABCの遅すぎた慧眼と、BSテレ東の「そこな!」感に拍手喝采した(深夜に独りで、な)。

 そんな俳優・北村有起哉が主演の「たそがれ優作」を全力で愛でようではないか。

 主人公の北見優作は脇役俳優。殺されるチンピラ役も演じれば、刑事にほだされる犯人役も。セリフが少ない1話ゲスト。最近は娘と入れ替わる父親役も。さらには子供向けの長寿アニメ「ドリアンくん」の声も担当し、業界ではキャリアと確実な信用を築き上げたいぶし銀役者である。もうこの時点で北村と重なるし、そつなく淡々と、着実に誠実に仕事をこなしていく姿には説得力がある。多くの脇役俳優がこんな感じなのかな、ギャラは1本いくらなのかなと想像して楽しむ。

 フォーマットはグルメモノで、毎回優作が訪れる店は「うわ、これ食べたい」と思わせる料理を出す名店だ。こだわりの強そうな店が多く、ハードル高いなと思いつつメモっちゃう感じの店。

 ただし、メインディッシュは北村が演じる優作の日常だ。優作が魅力的なのは、質素な生活でも誠実に役者業をまっとうしているところ。そして最大の魅力は女たちにダメ出しされて、毎回たそがれるところだ。

 人間は50を過ぎるとダメ出しされなくなる。遠慮されるか無視される。誰からも叱咤(しった)してもらえず、孤独なあまり「謎のかまって中年」と化す。富や人脈を自慢したり、人を隷従させたり。女もそうだが、男のほうが顕著。ダメ出ししてくれる女がどれだけいるかで、男の幸福度がわかるよね。モテても金があっても、裸の王様からは人が離れていく。不幸である。その点、優作には金はないが仕事はある。しかもダメ出ししてくれる女がたくさんいる。ダメ出しを素直に受け止め、きちんとめげて、しっかりしょげる。そこがいい。たそがれることができる男は結構幸せなのではと思った。

 まず、同じ団地に住む小学生(浅田芭路)には、現場へ行く前に演技チェック&ダメ出しをしてもらう。別れた妻(遊井亮子)からは過去のダメ出し。元妻の言葉の端々には棘があり、優作は稼ぎも悪くて、子育てに一切参加してこなかったことが伝わる。行きつけのバーのママ(坂井真紀)からは揶揄に近い助言も。共演した若手女優(駒井蓮)とは一瞬その気になるも、逆に業界全体のクソ男どもに対するダメ出しを浴びせられる。

 トホホだし、ちょっぴり腹も立つが、それもこれも人生の血肉、役者の糧とする優作。北村の表情が静かに多くを語る大人の物語だ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年11月2日号掲載

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