「大人用の薬を砕いて子ども用に」「病院の9割で治療薬が足りない!」 前例のない「医薬品不足」はどうなる?

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作れば作るほど赤字

 今回の事態を見ると本当に有益だったのかと首をかしげたくもなるが、患者にとって命綱ともいえる医薬品を巡る混乱は、一体いつまで続くのだろうか。

 公益社団法人東京都薬剤師会の前会長である永田泰造氏によると、

「患者さんの中には4、5軒回ってようやく薬が見つかったという人もいて、対面する薬剤師も皆が大変な思いをしています。本来はジェネリックを製造するメーカーの環境が整えられていない段階で増産を進めても無理が出る、という指摘が業界内にありました。今は錠剤の最低薬価は1錠5.9円に定められていますが、円安によって極端に言えば作れば作るほど赤字になるのが現状で、不正を行ったメーカーの代わりを他社が担えていません。なんとか利益の一部をやりくりできる範疇で、赤字覚悟の薬をある程度追加生産しているのが現状だと思います。その結果、製造ラインのスケジュールが混乱し、他の後発医薬品の供給にも影響が出ているということです」

 限界まで切り詰められた薬価を見直すなど、メーカーが健全に薬を製造できる環境を整えなければ、収束の見通しさえ立たない。

何らかの支援が必要

 冒頭の日本医師会の緊急アンケートの分析に携わった神奈川県立保健福祉大学教授の坂巻弘之氏はこう話す。

「最近になって厚労省は企業や医療関係者に増産の通知を出しましたが、製薬会社の多くは薬価が年々下げられる影響で、利益を確保できる最低限の在庫しか生産しない体制になっています。メーカーとしては“感染拡大に備えて増産しても在庫を抱えてかえって赤字になってしまう”という話にならないよう、国が在庫を買い上げるなど何らかの支援も必要になってくるのではないでしょうか」

 医薬品業界を正常化するための“特効薬”が、一刻も早く求められている。

週刊新潮 2023年10月26日号掲載

特集「薬がなくなる! 日本を襲う未曾有の『医薬品不足』」より

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