「無謀なトレーニングで子どもたちは壊れてしまう」 140年間続く「小学生に英語を教えるべきか」論争に専門家が提言

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 小学校から英語を正式教科化した結果、学力テストでの英語の成績は下がってしまった。この矛盾をどう捉えるべきなのだろうか。専門家はこう最終結論を下す。小学生に英語教育は必要ない。それは、明治以来140年の論争を経てすでに証明されているのだと。【江利川春雄/和歌山大学名誉教授】

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「使える英語」を身に付けさせるべきだとして、小学校から教科として英語を教える政策が2020年度に始まりました。中学校では覚える単語の数が約2倍に増やされるなど、英語が著しく難化しました。その結果、学力テストにおける子どもたちの英語の成績は明らかに下がり、英語嫌いを増やしてしまった……。

 この皮肉な現状を前回では解説しました。では、どうすればいいのでしょうか。問題改善にあたっては二つの選択肢が考えられます。

 一つは、英語力が身に付いていないのは子どもたちの学習不足ゆえだと考え、もっと徹底的に英語をたたき込むこと。二つ目は、政府・文科省が掲げる早期英語教育によって「使える英語」を身に付けさせるという政策そのものが誤っていると考え、政策のほうを修正すること。

 みなさんはどちらが正しい改善策だと思いますか? 私には答えは自明に思えます。なぜなら――。

反対論の中身

〈こう話すのは、英語教育学・英語教育史を専門とする江利川春雄・和歌山大学名誉教授だ。

 前回において、早期英語教育を巡る行政の“病巣”を指摘した江利川氏は、問題はいまに始まったことではないとみる。実際、江利川氏は著作等で日本の英語教育の「積年の過ち」を明らかにしてきた。

 結論を先に記しておこう。小学校から「使える英語」を身に付けさせようとしても、それは壮大な無駄なのである。〉

〈難渋にして学び難き外国語の如きはこれを生長後に譲るべきものなり〉

〈教師の供給容易にこれに応ずべからず〉

〈英語の発音の原理ははなはだ錯雑(さくざつ)にして幼年生の容易に理解し能わざるところなり〉

 これは1885年(明治18年)、当時の代表的な教育雑誌「教育時論」の掲載論文で示されている「早期英語教育反対論」の論拠です。英語を小学中等科(現在の小学4年生)から教えるべきか、高等科(現在の中学1年生)から教えるべきかで論争が繰り広げられていたのですが、注目すべきは反対論の中身です。

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