妻の反対を押し切ってベンチャー企業へ転職 43歳夫が1年後 彼女に放ったあり得ない一言

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「不倫がきっかけで家族に見捨てられかけている男性がいるんだけど、話を聞いてみてもらえない?」と知人女性から連絡があった。いったい誰なのかと思ったら、彼女の弟なのだという。

「弟は、たぶん妻に対して居丈高に接していたのだと思う。私自身、弟とは断絶に近い状態だった。だけど今回ばかりは弟からSOSが入ったの。家族がオレから去っていこうとしている、なんとかしてくれ、ねえちゃんって。アイツ、もとは気弱なタイプだから……。でも私があれこれ言ったらケンカになっちゃって。だから客観的に聞いてもらいたくて」

 知人女性からの命を受けて、榊原亮一さん(43歳・仮名=以下同)に会いに行った。

彼を見捨てた父

 亮一さんは180センチ近い長身にがっしりした筋肉質で、まさに威風堂々とした雰囲気をもっていた。だが近づいた私を認めると、ニコッと笑って会釈する。体躯と笑顔にギャップがあるところが意外と女性ウケするかもしれないと感じた。

「不倫だと大騒ぎするような関係じゃないんです。妻が騒ぎすぎなんですよ」

 喫茶店に落ち着くなり、亮一さんはそう言った。穏やかそうな笑みは絶やさない。亮一さんは「姉とは子どものころから、あまり折り合いがよくなくて。今回のこともとにかく僕が悪いと一方的に断罪するので、腹が立って、ついケンカになってしまったんです」と恥ずかしそうに言った。

 彼は姉と妹にはさまれた長男で、母親からは溺愛されたという。父からは「おまえは男らしくない」と無理矢理、近くの道場で柔道を習わされた。だがどうしても好きになれず、母にやめたいと泣いてすがった。

「母が父に言ってくれたんですが、『どうして本人が直接言ってこないんだ』と叱られたと。しかたがないから父におずおずと、柔道をやめたいと言ったら、いきなり殴られました。『おまえのそういうおどおどしたところが見ていられない。柔道をやめたいなら、オレに勝ってから言え』と投げ飛ばされました。父は柔道の黒帯なんです」

 やめられずに道場には行ったが、やる気がないため投げられて腕を骨折。骨折が治るとまた行かされたが、彼は道着をつけずに見ているだけだった。ある日、父が突然、見学に来て、彼がまったく稽古をしていないことを知った。

「どうやら僕はそのとき父に見捨てられたようです。それ以来、父は僕の顔を見ることも、言葉をかけることもしなくなった。小学校3年生のときですね」

 父親は小さいながらも会社を経営していた。後継者として息子を「男らしく」育てようとしたのだろうが、その夢は脆くも崩れ去り、父の期待は姉に向かった。

「ねえちゃんはあの通り、気性が激しいし強いから、今は立派に後継者になっています。代わりに僕は母に溺愛されて育ったけど、なんだかバランスの悪い人間になってしまったような気はしています。妹がいちばん親からの被害が少なかったのかもしれません。好きなように生きていますから」

 柔道をはじめ、スポーツなど特に好きではなかった亮一さんだが、今のようにがっしりした体格になったのは30代になってから始めた筋トレのおかげだという。筋トレは「現実逃避」だと彼は自嘲的に言った。

「僕のせいで家庭が壊れたと姉は思っている…」

 大学は関西の私学へ進んだ。家から離れたかったからだ。「心配だから」と母がついてきた。1年生のころは黙っていたが、2年生になるとき「もう帰っていい」と母を突き放した。母は父と別れて暮らしていたかったから、彼のめんどうを見る口実でついてきただけだとわかっていた。

「父はおもしろくなかったでしょうね。結局、両親はそれをきっかけに離婚しています。母の生活費は姉がめんどうをみているようですが、僕のせいで家庭が壊れたと姉は思っている。でももともと父と母は相性が悪かったんだと思います」

 その後の大学生活で、彼はようやく「自分らしく」日々を楽しめたという。勉学にも励んだし、アルバイトをして貯めたお金で大好きな鉄道の旅にも出かけた。今でいう「乗り鉄で撮り鉄」だ。鈍行列車が好きで、あちこち乗って写真を撮った。

「鈍行って、ゆっくりしているけど、確実にどこかにきちんとたどり着く。特急は過程を楽しめないので、僕はあまり好きじゃないんです。列車って人生だなあと思います」

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