「米国は対外的な危機があれば1つにまとまる」は過去の話…中東情勢緊迫化で国内は大混乱の悪夢が

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迅速に動いた米国だが、国内の状況は…

 中東地域で数十年ぶりの嵐が吹き荒れるリスクが高まっている。

 10月7日、パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けた。これに激怒したイスラエルは、ガザ地区への空爆を続けている。周辺国などから仲介の動きが出ているものの、「両者の戦闘は1カ月以上続く」との見方が一般的だ。

 世界が固唾を呑んで状況を見守る中、イスラエルの同盟国である米国は迅速に動いた。

 12日にイスラエルを訪問したアントニー・ブリンケン米国務長官はベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談し、同国に対する支持を表明した。その後、事態の拡大を防ぐため、サウジアラビアなどアラブ5カ国を訪問した。ジョー・バイデン大統領も18日にイスラエルを訪問し、イスラエルとの連帯を改めて表明した。

 米軍は2隻の空母を派遣し、他地域への紛争拡大を抑止する姿勢を示している。中東地域における米国のプレゼンス低下が指摘されていたものの、国際社会は「困ったときは米国しかいない」ことを改めて認識した形だ。

 だが、米国内の状況は異なると言わざるを得ない。

 親パレスチナと親イスラエルの両勢力は、米国各地でそれぞれ集会や抗議活動を積極的に展開している。多民族社会の米国は動揺を隠すことができない。一部では暴力事件に発展し、また米イリノイ州シカゴ近郊ではパレスチナ系の6歳少年が刺殺された。警察当局は対応の強化に乗り出さざるを得なくなっている。

何よりも深刻なのは米連邦議会下院の機能不全

 世代間のギャップも生じている。米シンクタンクのピュー・リサーチ・センター(ピュー研究所)がハマスによる攻撃の数カ月前に実施した調査によれば、米国人全体はパレスチナよりもイスラエルに好意を抱いているが、30歳未満に限るとパレスチナに好意を持っている割合が61%と、イスラエルの56%を上回っていた(10月12日付ニューズ・ウィーク日本版)。

 何より深刻なのは米連邦議会下院の機能不全が続いていることだ。

 ケビン・マッカーシー氏(共和党)の米議会下院議長解任から10日以上が経っても、後任が選出できない異常事態となっている。下院で多数派を握る共和党は13日、保守強硬派(フリーダム・コーカス)のジム・ジョーダン司法委員長を選出したが、本選挙となる下院採決でジョーダン氏が選出される見込みは立っていない。

 解任されたマッカーシー氏にも、今年1月の議長選では15回目の投票で初めて過半数を確保したという経緯がある。1回の投票で選ばれなかったのは100年ぶりのことだった。

 下院の機能不全が起きているのは共和党内の深刻な対立のせいだ。少数派に過ぎないフリーダム・コーカスが自らの主張(小さな政府を追求)に固執するあまり、共和党が一致団結して行動できない状況が続いている。

 下院議長が選出できなければ、米国政府が中東情勢の解決に尽力しようとしても、対策に必要な新たな経費を拠出することは不可能だ。難産の末に成立した「つなぎ予算」も11月中旬に失効し、政府機関の一部が閉鎖を余儀なくされるだろう。一般の米国人の生活に多大な影響が及ぶことは必至だ。

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