「小学生に英語授業」は間違っている? 学力テストで英語の成績は低下、「話す技能」は6割以上が0点

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 こんな皮肉はあるまい。国が総力を挙げて子どもたちの「英語力」を上げようとした結果、逆に学力テストでの英語の成績は下がってしまったのだ。何かが根本的かつ決定的に間違っている。そもそも小学生に英語を教える必要があるのか。専門家による憂国の警鐘。【江利川春雄/和歌山大学名誉教授】

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 宮崎駿監督の映画「魔女の宅急便」には、こんなシーンがあります。

 小さな“魔女”である主人公のキキが、いよいよ本格的な魔女になるための修業に向けて遠い町へ旅立とうとする場面です。

父「どれ、私の小さな魔女を見せておくれ」

「いい町が見つかるといいね」

キキ「うん」

 これから離れ離れになる切なさと同時に、立派な魔女に成長してほしい、成長したいという期待が入り混じった親子の別れの名シーンです。

 英語に直訳すると「魔女」は「witch」で、キキの返答である「うん」は「Yes」です。AI(人工知能)であればこう訳すでしょう。

 しかし、キリスト教圏で「witch」といえば、魔女狩りから連想されるようにまさに悪魔的な存在であり、かわいらしいキキとは正反対の「醜い悪女」ということになってしまいます。

 また、これから親と幼い娘が離れて暮らそうというのに、「いい町が見つかるといいね」と父に見送られる娘が「Yes」だけでは何とも淡泊であり、「成長を遂げるためのやむを得ない別れ」というニュアンスが英語圏の人には全く伝わらない。それを受け入れてしまう父親は、幼い子どもを無責任に放り出す「児童虐待親」とすら受け取られかねません。

 なぜ機械的な直訳では“誤訳”になるのでしょう。

外国語を学ぶ意義とは

〈こう問いかけるのは、英語教育学・英語教育史を専門とし、長らく学生たちに英語を教え、英語教員の育成にも携わってきた江利川春雄・和歌山大学名誉教授だ。

 いま政府・文部科学省は早期英語教育に躍起になっている。2020年度から実施されている学習指導要領では、小学校3・4年生で週1コマの外国語活動が行われ、5・6年生で週2コマの外国語(実質は英語)が正式教科となり成績もつけられている。

 だが、「人間の基礎」「学びの土台」を作る小学校において、国語や算数に加えて英語まで教える必要があるのか。それで本当に英語が身に付くのだろうか……。まずは外国語である英語を学ぶ「意義」に関して、『英語と日本人』『英語教育論争史』の著書がある江利川氏が説明する。〉

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