「お隣さんに醤油を借りに行く」「国産PCのCM」 今はなくなってしまったアレコレを追憶(中川淳一郎)

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 今の子供と私(50歳)が子供だった時との違いについて考えていたのですが、デカいのがコンビニの有無です。セブン-イレブンの場合、私が小学5年生だった1984年は全国2299店舗。2022年は2万1402店舗のため、生活はかなり便利になったものです。84年、近所にセブン-イレブンができたので時々利用していましたが、当時はその名前通り「午前7時から午後11時まで」の営業。今は24時間営業の店舗が多いため、子供たちはこの営業時間が社名の由来ということを知らないのでは。

 コンビニが滅多になかった約40年前、夜7時を過ぎるともはや買い物はできない状況でした。だからこそ「お隣の〇〇さんの家に行って醤油を借りてきて」と母親から命令されたり、逆に〇〇さんの家の息子が「ワサビ貸して!」なんてことを言ってきた。今の子供は「コンビニに行けば済むじゃん。ヘンな習慣(笑)」みたいに思うことでしょう。

 そして、25年~15年ぐらい前までは乱発されていたものの、今はあまりないのがパソコン(PC)のCMです。基本的には「未来の夢のツール」「思ったよりも難しいものではないですよ」という演出です。

 私は96年、中谷美紀が踊りまくるCMのIBM「Aptiva」というPCを買いました。PC通の友人が「Aptivaはモデムがついているからインターネットが使える」と言う。そうです、当時のPCの多くはモデムがついておらず、スタンドアロンなものだったのです。富士通のFMVのCMは定年退職後の人をターゲットにしていたのか、当時60代だった高倉健と倍賞千恵子が登場。不器用でアナログ人間の健さんが「簡単だよ、こんなもん」などと言う。少しずつPC操作の腕が上がっていく様を描いていました。

 NEC、東芝、シャープ、パナソニック、日立、ソニーといった日系家電メーカーがまだ元気だった時代の象徴がパソコンCMだったといえましょう。しかし今やPCはASUSやLENOVOといった海外勢が強く、日系企業のCMなんてトンと見なくなった。

 完全に消えたのが、エロ本の自販機です。学生が多く住む街に存在し、けっこう売れ行きは良かった。よく覚えているのが一橋大学小平キャンパスの門近くにあった自販機。最寄りの一橋学園駅から通ると必ず目にしてしまうものでした。小学生の通学路にあって、今であればPTAからクレーム殺到ですよ。夜になると、近くのアパートに住む男子学生同士が鉢合わせし頭をかいて「いやー、お前もか」「先客がいたか!」なんてやり合っていた。

 そして、東大駒場キャンパスの裏門近くには、6畳ほどのエロ本自販機集積場所がありました。記憶が明確ではないのですが、3~4台の自販機が入っていました。当時、学内にある駒場寮に泊まることが多く、ある時、酔っ払って皆でそこにエロ本を買いに行きました。が、お金を入れても出てこない。レスリング部の大柄なヤツが「おーい、出てこい」と揺らしたら突然ブーブーという警告音がなり、慌てて逃げたことを思い出しました。結局カネは回収できず。

 ほんの数十年前のことですが、世の中随分変わったものです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年10月12日号掲載

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