常温で水素を運ぶ画期的技術で世界を変える――榊田雅和(千代田化工建設代表取締役会長兼社長)【佐藤優の頂上対決】

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カタールと日本

佐藤 岸田政権は、いまのところ、ロシアをひどく怒らせることはしていません。3月にキーウに行った際も、広島サミットにゼレンスキー大統領を招いた時も、ロシアに事前通告をしています。しかもウクライナへの装備品40億円分の供与というのは、他国に比べて見劣りします。そもそも殺傷能力のある武器を出していませんし、非常食3万食や車両100台の供与も、破棄すべきものを回しています。

榊田 それをロシア側は知っているのですね。

佐藤 もちろんです。もっとも供与しようにも、自衛隊法で破棄するものしか提供できないのですが。

榊田 だから怒らない。

佐藤 ある意味で、日本はうまく立ち回っている。政治学者の高坂正堯氏は、国際政治には「価値の体系」「利益の体系」「力の体系」があると言っています。価値の体系では、日本は欧米各国と歩調を合わせプーチンに個人制裁をかけましたし、岸田総理はプーチンを厳しく糾弾しています。ところが利益の体系では、ここ7カ月の間に、日本はロシアからの穀物を前年比で5倍も買っています。

榊田 そうなのですか。世の中ではロシアの石油やガスを中国、インドが買っていることばかりにスポットが当たっていますね。

佐藤 日本の商社が買って、東南アジア諸国に転売しています。また制裁のかかっていない医療機器のロシアへの輸出は、8倍に伸びています。

榊田 8倍ですか。

佐藤 岸田総理は7月にNATO首脳会議などでヨーロッパを訪問し、価値観外交を展開しましたが、一旦日本に戻って中東のサウジアラビアやカタールを訪問した際には、価値観を押し出すことなく、協調外交に徹しました。

榊田 私は、カタールにはご一緒したんですよ。弊社は、カタールの約9割のLNGプラントに関わっていますし、現在、アメリカのテキサス州で建設しているLNGプラントのオーナーは、カタールとエクソンモービルの合弁会社です。

佐藤 カタールでは、ほぼ独占状態ですね。

榊田 弊社はいま、カタールで年産能力3200万トンのLNGプラントを建設中です。今年は設計調達の段階で、来年が工事のピークです。建設現場では約4万5千人が働くことになります。

佐藤 非常に大規模なプロジェクトですが、完成はいつですか。

榊田 2027年です。このプラントが完成すると、カタールの天然ガス産出量は年間1億1千万トンになります。そのうち弊社が1億トン分を手掛けたことになる。

佐藤 岸田総理とカタール首脳とはどんなやりとりがあったのですか。

榊田 ガスの長期的な安定供給をお願いしつつ、日本からは脱炭素などの新技術を提供する用意があるとの内容を聞いています。私としては、もう少し突っ込んだやりとりをしてもよかったのではないかと思いましたね。

佐藤 どういうことですか。

榊田 日本はカタールから20年間という長期契約でLNGを調達してきた実績があります。そしてその設備は弊社が手掛けてきましたが、このところ日本との関係が薄れてきているんですね。

佐藤 なるほど。

榊田 以前は、プラントを造るにしてもオペレーションするにしても、あるいは販売においても、日本を頼りにしていたところがありました。ですが近年、カタール自身が非常に力をつけてきた。

佐藤 昨今のエネルギー問題への意識の高まりで、カタールの存在感は増しています。

榊田 各国のカタール詣ではすごいですよ。ですからプラントコントラクターに対しても強気、ガスのバイヤーに対しても強気の姿勢を崩さない。それで、長らくガスを買ってきた日本のJERAとの交渉が決裂してしまったんです。カタール側が非常に厳しい条件を提示したと聞いています。

佐藤 JERAは、東京電力と中部電力の火力発電部門が統合してできた会社ですね。前社長の小野田聡さんにはこの欄にご登場いただきました。その際、その話に触れられていましたが、由々しき事態なのですね。

榊田 このままだと2027年以降カタールから日本へのLNGの輸入がなくなってしまいます。それなのにプラントは弊社が造っている。

佐藤 JERAが契約しなかった分のガスはどこが買うことになったのですか。

榊田 中国などです。中国は27年の長期購入などの厳しい条件を受け入れています。今から27年ですから、カーボンニュートラル実現の2050年になってしまいます。

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