“時政パパ”の坂東彌十郎が今度は歌舞伎座の水戸黄門に主演 本人は「みなさんの期待に応えられる役者でいたい」

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 ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第21回は、歌舞伎役者の坂東彌十郎(67)だ。

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 坂東彌十郎が10月に歌舞伎座(東京・銀座)で「水戸黄門 讃岐漫遊篇」に主演する。

 昨年はNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で主人公・北条義時の父・時政を演じ、“時政パパ”として注目を集め、今期はTBSの「VIVANT」では警視庁公安部部長役でも貫禄を見せた。身長は183センチ。「水戸黄門」実写100年超の歴史の中で、もっとも長身のご老公の誕生である。

「水戸黄門」といえば、初代・東野英治郎(1907~1994)から始まり、西村晃(1923~1997)、佐野浅夫(1925~2022)、石坂浩二(82)、里見浩太朗(86)と、歴代の水戸光圀が活躍したTBS「ナショナル劇場」枠のドラマが40年以上も親しまれてきたが、映画や演劇の世界でも多くの人気者たちが主演してきた。

 その元祖が日本初の映画スターといわれる尾上松之助(1875~1926)だ。“目玉の松っちゃん”の愛称で庶民に愛された松之助は、大正15(1926)年に50歳で亡くなるまでに、10本以上の無声映画の「水戸黄門」に主演している。

 その後も山本嘉一(1877~1939)、大河内傳次郎(1898~1962)、徳川夢声(1894~1971)らが主演を続け、戦後の東映では北大路欣也(80)の父・市川右太衛門(1907~1999)や月形龍之介(1902~1970)が主演。月形のシリーズは昭和30年代の映画全盛期にヒットシリーズとなって14作品が製作された。この月形版は、「水戸黄門漫遊記 鳴門の妖鬼」(1956年)、「水戸黄門漫遊記 怪猫乱舞」(同前)など奇怪なムードのストーリーが特長で、「水戸黄門漫遊記 怪力類人猿」(同前)では、南蛮渡来のゴリラが悪事に使われて大暴れする衝撃の展開。

 また、長谷川一夫(1908~1984)主演の「水戸黄門海を渡る」(1961年)は、勝新太郎(1931~1997)の助さん、市川雷蔵(1931~1969)の格さんとともに、いったいどこの海を渡るのかとドキドキしていたら、行き先は蝦夷地。しかも、現地で出会った蝦夷地の長ャグシャインは長谷川の二役で、松前藩と対立する酋長にご老公が諭す場面では、「長谷川一夫が長谷川一夫に説教する」というすごい構図となっていた。

父も演じたご老公

 こうした多彩な「水戸黄門」映画が製作される中、1959年年末に公開されたのが、新東宝映画「水戸黄門とあばれ姫」。ここでの黄門役は坂東好太郎(1911~1981)。彌十郎の父である。

 明治44(1911)年、東京・神田の歌舞伎役者の家に生まれた好太郎は映画界で活躍した時期があり、松竹、大映、日活、新東宝、東映と各社の映画に出演。「水戸黄門とあばれ姫」では、五代将軍・徳川綱吉の「生類憐みの令」で苦しむ庶民を救い、その背後にいる巨悪を、助さん、格さん、手裏剣お竜(小畠絹子=1931~2022)ととともにやっつける。身分を隠した美しい姫、暗躍する悪人たち、正義の志に燃える若者、そして、ご老公と悪の親玉との対決。痛快娯楽時代劇のお手本のような作品である。好太郎の黄門は、まだ40代ながら白髭がなかなかよく似合っている。この映画の約3年後、好太郎は歌舞伎界に復帰しているので、黄門役はこの1作のみである。

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