デーブ・スペクターがじっくり語る「ジャニーズ問題」 「正義感の群集心理は今でも気味が悪い」、「米国型システム導入は絶対無理」

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企業とテレビ局の社会的責任

 企業が相次いで広告契約の見直しを発表した理由の一つに、マスコミの取材攻勢がある。毎日のように「今後、CM契約はどうしますか?」という問い合わせが入るため、早急に判断を下す必要があったのだ。

「一種のプレッシャーを感じ、契約見直しを発表した企業もあったでしょう。とはいえ、契約を結んだ責任は企業にありますから、被害者のような発表に違和感を覚えた視聴者も多かったと思います。広告契約には期限があります。本来なら記者の問い合わせに、『難しい問題ですので慎重に検討します。契約更新を判断する時期までには結論を出します』と答え、ひっそりと契約を解除するのが正しい対応だったはずです。とはいえ、9月7日の会見で『これでは擁護できない』と判断した可能性はあるでしょう。『契約見直しを発表しないと、わが社が批判されてしまう』と危機感を持ったとしても不思議はありません」

 企業では広告契約の見直しが相次いでいるが、民放キー局などテレビ局は「タレントに問題があったわけではなく、今後の出演状況は変わらない」といった発表が目立った。

「日本の芸能界はタレントより事務所が力を持っています。ジャニーズ事務所に所属していれば仕事があり、芸能界で成功できる可能性が高くなります。タレントよりジャニー喜多川氏のほうが強いため、性加害を止められませんでした。そして、テレビ局が『ジャニーズのタレント』という理由で起用を続けてきたことが、被害者が膨れ上がった原因の一つです。テレビ局は今以上に反省する必要があると思います」

日本の芸能界における“美徳”

 とはいえ、具体的な改革となると、極めて難しいという。一部の識者は「アメリカのシステムを参考にすべき」と訴えるが、デーブ氏は「それは絶対に無理です」と一蹴する。

「アメリカではドラマでもバラエティでも、よっぽどではない限り必ずオーディションで出演者が選ばれます。公平公正な選出が保証されており、キャスティング担当は監督やプロデューサーの意向しか考慮しません。日本のテレビ局のように“大手芸能事務所への忖度”など必要ないのです」

 とはいえ、このアメリカ型システムは「世界的な大スターはタレント・エージェントより偉い」という背景があって初めて成り立つ。

「ジャニーズ問題をワイドショーなどが長年、取り上げられなかったという圧力も、アメリカの場合はテレビ局の中で全部の番組を何もかも作っているわけではありません。仮にニュースとして報じるとすれば止めようがないのです。局がトップダウンで決める日本とは対照的です。また日本では給与制のタレントもいるほどですから、無理矢理にアメリカのシステムを取り入れると、日本の芸能事務所が持つ“美徳”も失われてしまいます」

 日本の芸能事務所が持つ美徳とは何か。デーブ氏は「面倒見がいいところです」と答える。

「アメリカの芸能界は、売れないベテランや無名の新人に冷淡です。ところが、日本の芸能事務所は、所属タレントの全員に仕事を持ってこようと努力します。その一つが“バーター出演”でしょう。売れっ子を出演させる代わりに、ベテランや新人も押し込む。オーディションに比べると極めて不透明なキャスティングですが、ベテランには活躍の場を確保し、新人にはチャンスを与えます。『1人のスターだけでなく、所属タレントみんなを大切にする』という考えは、アメリカにはありません。まさに日本の美徳ですから、日本型のキャスティングを無理に変える必要はないと思います」

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