星野リゾートが「旧奈良監獄」を「ラグジュアリーホテル」に…近代建築ファンを魅了する“美しすぎる刑務所”の全貌

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「少年刑務所の役割を知ってほしい」

 刑務作業体験は草刈りで終了。ここまで約2時間半。そしてこの後は、元刑務官がガイド役を務める所内ミニツアーとなる。
 
 違反行為をした受刑者の懲罰房「重屏禁房」には切ない落書きが多数あった。受刑者らが作業をしていた実習場跡、ピストルが置かれていた武器庫の棚、監視カメラが設置されていた壁、風呂場に行くための通路も紹介。内容の濃さがハンパない。所内ミニツアーをもって、この日の刑務作業体験プログラムは終了、解散となった。

 ところで気になるのは、参加者らが応募した理由だ。なぜしんどい思いをするこのプログラムにわざわざ申し込んだのか? 複数人に聞いてみたところ、やはり多かったのは建築が好きな人。「近代建築が好きで、中に入ってみたかった。ここをきれいに維持することに関われるのは嬉しい」。そして話を聞いた全員が「家では草むしりなんてやりません」とはっきり言っていた。また「少年刑務所の中でどういうことが行われていたか知りたかった」という声も多かった。

 では主催者はどんな意図でこのような体験プログラムを用意したのか。同プログラムを含む「奈良赤レンガフェスティバル2022」を運営する吉野泰司氏によれば「多くの方は刑務所で受刑者が何をやっているかご存じありません。ここでは若い受刑者が社会に戻るときのために、技術を身につけ、しっかり更生するための教育をやっていました。刑務官の方々が本当に真摯に取り組んでいたことや、少年刑務所が社会に対してどういう役割を持っているのかを、少しでも知ってもらうためです」。

 旧奈良監獄は美しいだけの建築ではない。閉ざされた門の中で、人知れず長く担ってきた大切な役割があったことを忘れてはいけない。

 刑務作業体験プログラムは、少年刑務所やそこで働く人について考える入り口となり、旧奈良監獄をより深く理解する道を示してくれる。
 
 旧奈良監獄の「刑務作業体験プログラム」は11月も開催予定。気になる方はJ-heritageのホームページへ。

華川富士也(かがわ・ふじや)
ライター、構成作家、フォトグラファー。1970年生まれ。昨年、長く勤めた新聞社を退社し1年間子育てに専念。今年からフリーで活動。アイドル、洋楽、邦楽、建築、旅、町ネタ、昭和ネタなどを得意とする。過去にはシリーズ累計200万部以上売れた大ヒット書籍に立ち上げから関わりライターも務めた。

デイリー新潮編集部

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