【大川原化工機冤罪事件】東京地検は立件できたのに取り下げてやったの態度、捜査員は財務諸表の読み方も分かっていなかった感じ…現役社員が証言する“杜撰すぎる捜査”

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 2020年3月、大川原化工機(神奈川県横浜市)の大川原正明社長ら幹部3人が「武器に転用できる噴霧乾燥機を中国に不正輸出した」という外為法(外国為替及び外国貿易法)違反の容疑で警視庁公安部に逮捕された。のちに起訴取り消しとなったが、逮捕の影響は大きかった。噴霧乾燥機の国内シェアトップを誇った同社は、一時、受注が半減し、経営危機に陥った。「主なき会社」を必死に守った社員に当時の話を伺った。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

亡くなった相嶋さんの部下

 社長ら幹部3人が逮捕され、苦境に陥った会社を社員らはどのようにして守ったのか。当時は執行役員として国内営業を統括していた取締役のIさんと、これまで財務畑を歩み現在は同じく取締役の初沢悟さんに話を聞いた。

 理工系の出身のIさんは技術部長も歴任し、機械にも詳しい。直属の上司は、逮捕後、がんの悪化が判明したものの、なかなか保釈が認められず、治療が手遅れとなり亡くなった顧問の相嶋静夫さんだった。

「私が入社した時からの直属の上司でした。相嶋さんの機械の知識はものすごく豊富で、性格は昔かたぎの職人肌で仕事には厳しい人でした。まあ、今ならパワハラと言われてしまうような指導もあったかな」と懐かしがる。

 また「起訴取り下げで名誉回復できたはずなのに、直前に亡くなるなんて。何が理由であんなに拘束を続けたのか、怒りで一杯です」とうつむいた。

重要な書類が返却されない

 外為法違反容疑の家宅捜索があった2018年10月3日、いきなり大勢の捜査員がやってきて、「パソコンも携帯も出してください」「電話には出ないでください」と言った。

 パソコンはおよそ1週間後には返却されたが、重要な書類はほとんど返されなかった。書類がなければ、顧客からの古い製品の問い合わせや部品の注文に対応できない。

「(顧客に)家宅捜索で資料を持っていかれたとも言えず、『古い装置なので今はっきりはわかりません』と言って営業担当が直接確認に行くなどして対応しました」(同)

 Iさんは警視庁公安部の聴取対象だった。最初はエンジン部の幹部社員と共に原宿署に呼ばれ、その後は1人で通った。

 Iさんが最初に訊かれたのは「殺菌、滅菌の定義について」だったという。

「ちょっとでも菌が死ねば殺菌だと警察は言っていましたが、『うちのお客さんの言う殺菌の意味は、アルコールでテーブルをさっと拭くとかいうのとは次元が違いますよ。殺菌と言っても、うちでは滅菌に近い意味ですよ』なんて話していました」(同)

 取調官が「噴霧乾燥機があってはならない場所にあった」と言うから、Iさんが「どこにあったんですか?」と訊いても答えなかったという。

 さらに「相嶋の発言を聞いたか」とか「島田(順司=元取締役)がこう言っていたのを聞いたか」などと畳みかけてきた。2015年に技術部から営業部に移ったことを言うと「なんで変わったんだ」などとも言われた。

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