遺言が無効になるケースは? 成年後見の落とし穴とは? 父が認知症だった弁護士が語る注意点

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 今年6月に成立した認知症基本法。「認知症患者の尊厳」と「希望を持てる共生社会」を目指すとの触れ込みだが、実態はどうなのか。「前頭側頭型認知症」と診断された父の介護に携わった経験のある弁護士の浅井勇希氏に、認知症を巡る法律関係について話を聞いた。

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 認知症を巡る法律の話と聞けば「小難しい話が始まる」と身構える方もおられるかもしれません。一方で「問題を一気に解決できる、とっておきのテクニックがあるんだろう」と期待される方もいらっしゃるでしょうか。

 ですが、私は、認知症に関して「これをやればトクをする」とか「これさえしておけばトラブルを回避できる」といった分かりやすいノウハウはないと考えています。「成年後見」や「遺言」など、知っておくべき法律上の制度は確かに存在します。ところがこれらを妄信したあまり、かえって問題が生じることもあるのです。

〈こう話す弁護士の浅井勇希氏は、滋賀県草津市で「草津ゆうひ法律事務所」を営む、いわば“街の法律家”である。地域の町医者が「かかりつけ医」として幅広い診療を行うように、浅井氏のもとにも、刑事から民事まで日々さまざまな法律相談が持ち掛けられる。

 そんな浅井氏には、法律家とは異なる“もう一つの顔”があった。それが「認知症患者の家族」としての顔である。〉

父からの無言電話

 2018年に76歳で亡くなった私の父は、68歳のときに前頭側頭型認知症の診断を受けました。私たち家族が父の異変に気付いたのは、その2年前。父が住む名古屋の実家から私の事務所に時折、無言電話がかかってくるようになり、犯人が父だということが分かりました。ところが私が無言電話を怒っても父は悪びれるどころか開き直るばかり。

 もちろん“異変”は無言電話だけではありません。趣味にも関心を示さなくなり、ひげそりや歯磨きを怠るなど生活全般で無頓着さが目立つようになったのです。当初、母は父の異変について「うつっぽい」と話していましたが、これこそが前頭側頭型の典型症状でした。

 父に対する「うつっぽい」という認識が「ボケた」に変わるのにそう時間はかかりませんでした。例えば、親族の葬儀中、父がボソボソとずっと独り言をつぶやいていたり、持病の心臓病治療のため訪れた病院で順番を待ち切れずに勝手に診察室に入ってしまったり。いずれも、それまでの父の性格からは考えられない行動でした。

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