遺言が無効になるケースは? 成年後見の落とし穴とは? 父が認知症だった弁護士が語る注意点

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親族と良好な関係でなければ…

 このように認知症患者を連れ出すことで、トラブルになるケースも少なくありません。一部の親族による連れ出しに対して、他の親族が人身保護請求をすることすらあります。これまで人身保護請求といえば、別居中の夫婦の一方が、勝手に子どもを連れ去ってしまった場合などに行われるものでした。ところが最近では、認知症を患ったお年寄りの身体を巡ってこの請求がなされる例があり、今後増えることも予想されます。

 それでは、先んじて「きちんと遺言をしておく」ことでトラブル予防になるかというと、それも万全な解決策ではありません。どんな遺言をしようが、もめるときはもめる。遺言そのものの有効性を争う方法もありますし、遺留分が侵害されたと申し立てられてもめる場合もあります。

 遺言というのは、平たく言えば、「私は遺産についてこうしたい」「あなたたちは私のこの意思を尊重してくれますか」という言伝です。大切なのは言うまでもなく後半部分。親族と良好な関係を築いていなければ、どんな立派な遺言があっても役に立ちません。要は人間関係の問題なのです。

 後妻と先妻の子の例も、このような関係であれば常にもめるというわけではなく、両者の関係を拗(こじ)らせる何らかの出来事が過去にあったのかも。詳細はわかりませんが、本人がまいた種かもしれません。

親の側にも責任が

 これは遺言や相続に限った話ではありません。

 私の知っているケースで、遠方に住む認知症の親を呼び寄せながら、決して同居しないという例がありました。縁もゆかりもない土地で認知症患者の一人暮らしがうまくいくはずもなく、結局、この親は施設に預けられます。ですが、呼び寄せた子どもは、当初、施設にいる親を訪ねることすらしませんでした。

 これを聞き、私は最初、親に同情し、悲しい気持ちになりました。

 しかし、真相はそう単純な話ではなかった。終末期にようやく施設訪問した子どもに様子を尋ねると、「大分丸くなった」と言う。さらに詳しく聞くと、その親は若い頃、かなり厳しい性格の方で、その名残か施設職員にも強い当たり方をしていたらしい。親の側にも面会に来てもらえない理由があったのかもしれません。

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