【男子バスケ五輪出場】トム・ホーバス監督が語った「私があえて日本語で指導する」理由

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通訳がいるのは良くない

〈5歳でバスケを始め、NBAに憧れて育ったというホーバス監督。ペンシルベニア州立大卒業後、NBAロケッツのトライアウトを受けるも、チーム入りは叶わなかった。ポルトガルに渡った後、90年に日本リーグのトヨタ自動車に入り、来日1年目から4季連続で得点王を獲得。94年にはNBAホークスと契約し、2試合だけだが憧れの舞台でプレーした。95年にトヨタに復帰、00年に引退した後は一旦アメリカに戻り、IT関連会社に勤めていたところ、10年にWリーグのJXサンフラワーズ(現ENEOSサンフラワーズ)からコーチ就任の打診を受け、再来日。16年のリオデジャネイロ五輪では内海知秀女子日本代表監督の下でコーチを務め、翌17年にチームの舵取りを引き継いだ。日本で指導者の道を歩み始めた当初から「日本語で自分の言葉を伝える方がインパクトがある」として、選手への指導は全て日本語で行っている。ちなみに監督の妻は日本人である。〉

 監督やコーチと選手との間に通訳がいるのは良くないと思っています。合わせて20年以上、日本に住んでいるので、日本語は元々話せました。机に向かって勉強するというより、むしろ、私は真似が上手いので、他のコーチが話している日本語をよく聞いて真似していました。だから、私はいわゆる「きれいな日本語」は分からないです。選手に何かを伝える時も、どうしても上手に伝えられず、言いたいことをストレートに言うしかないです。結構、強い口調になってしまうこともあります。「もっと頭使って!」とか。

「お前」のような、悪い言葉や、ネガティブな言葉は使わないようにしています。コーチを始めたばかりの頃は、ついついそういった言葉も使ってしまっていたのですが、やっぱり雰囲気が悪くなるので、使わない方がいいかな、と。それに私は2メートル3センチもあるので、選手たちを指差しながら「お前もっとこうしろ! ああしろ!」と言ったら、周りに与える印象は良くないですよね。元々選手たちを傷つけるかもしれないことを強く言っているのに、悪い言葉やネガティブな言葉を使ったら、選手たちはもっと「痛い」かもしれない。そこは気をつけています。

 日本語はいつも間違えていますよ。でも、間違えても説明しようとすることの方が大切ですね。言い換える言葉を探して、とにかく気持ちを伝えるようにしています。時間はかかるけど、選手たちも私の気持ちを分かってくれていると思います。

 時には、怒っている時に日本語を間違えて、みんなの顔がスマイルになることもあります。代表の練習でも、若い選手たちは私が変な日本語で怒っていてもすごく真面目に聞いているのに、ENEOSのチームで一緒にやった経験がある渡嘉敷来夢(らむ)や宮澤夕貴は笑って面白がっていたので、私もそれを見て、笑っちゃったことがあります。選手たちにとっては、敬語で怒っているのが面白いみたいです。あとは、最後の送り出しの時に「勝ちましょっか」と言ったのが、間が抜けていて面白く聞こえたこともあるらしいです。それも悪くないですよね。間違えたのを笑われて、もっと怒ったら感じ悪いですから。すごく厳しい練習の中でも、そういうことでみんなリラックスできたかなと思います。

 試合中、つい熱くなってしまって言い過ぎることや、ニュアンスが伝わらないこともあります。選手の顔が曇っているなと思ったら、試合の後に必ず、「私はこういう気持ちです。こういう意味で言っています」と伝えてフォローアップします。私が選手のことを尊敬しているように、選手たちにも私を尊敬してほしいのです。

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