結婚直後に「妻が自分を選んだ理由」を知り困惑… 64歳夫が振り回された“彼女の家族問題”

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 不倫の恋は、お互いの気が合い、さまざまな条件が整えば長く続く傾向にある。さまざまな条件とは、配偶者が仕事をもっていて独立精神が豊かで、さらに嫉妬深くないこと、当事者が完璧なまでに隠蔽する意志が固いことなどだ。恋の当事者それぞれがそういう条件を整えられるのはめったにないことだが、それでも恋を全うする人たちもいる。

「四半世紀つきあった恋人である冬美が、今年の初めに亡くなったんです」

 さみしそうにそう言ったのは、工藤輝司さん(64歳・仮名=以下同)だ。よく一緒にコンサートや映画や寄席に行った。

「長く恋人関係だった女性がいなくなった。それでも僕には泣く場所もなかった」

 輝司さんはぽつりとそう言った。今も喪失感は癒えていない。

結婚の真相を聞き、不快に

 30年以上、連れ添っている妻も冬美さんとは面識がある。そもそも、妻のほうが先に冬美さんと仕事で知り合い、その後、輝司さんがたまたま冬美さんと出会って、「偶然ってあるものだね」と3人で笑い合ったのだ。それが四半世紀前のことだった。

 輝司さんが、3歳年下の美枝子さんと結婚したのは29歳のとき。父が経営していた建築関係で仕事をしていた彼は、その頃にはグループ会社としてリフォームの会社を作り、経営者となっていた。美枝子さんは父が紹介した女性だ。

「父の友人の娘だったんです。僕自身は気立てのよい人なら結婚しようと決めていた。美枝子は穏やかで、だけど自分の意見も持っている素敵な女性だった。3回デートして結婚を決めました。あとから知ったことだけど、実は美枝子には恋人がいたそうです。ただ、僕と結婚することで父親の会社が助かるならと思ったらしい。父が脅迫したとかそういうことではないんです。父は何も知らず、友人の娘を見初めて僕と見合いをさせた。結婚したから、父は友人を資金的に助けた。そういうことだった。結婚直後だったかな、僕は酔った父から美枝子の父親を助けたと聞かされて、ものすごく不快だった」

 輝司さんは逡巡したが、結婚して数週間後、タイミングを見て美枝子さんにその話をしたことがある。彼女は暗い顔をして聞いていたが、最後には「私は逆に感謝しているの」と意外なことを言った。美枝子さんは父との折り合いが悪かった。短大を卒業しているが、幼いころから「おまえは勉強なんかしなくていいから、水商売でもなんでもして家に金を入れろ」と言われていたという。 中学生のときに両親が離婚、母についていきたかったが拒絶された。なぜなら離婚理由は母の不倫で、母は独身に戻って相手と結婚するつもりだったからだ。

「母に拒絶され、父にはお金を生む労働者扱いされ、彼女は本当につらい10代を送ったようです。父はすぐに再婚、継母はスナックを経営していて、彼女は高校生のときから手伝わされていた。ただ、継母は悪い人ではなかったようで、『私が出してあげるから上の学校に行きなさい』と言ってくれた。4年制だと悪いから短大にしたそうです。彼女、優秀な成績で卒業しているんですよ。4年制への編入も勧められたそうですが、とりあえず自活の道を選んだって」

 ひとり暮らしを始め、父に仕送りをした。それでも父は足りないと文句を言った。数年後、継母が家を出て行方がわからなくなった。父から逃げたのだ。父は酒に逃げ、小さな会社の経営もおぼつかなくなった。そこへしばらくぶりに輝司さんの父が現れた。美枝子さんの父は、輝司さんの父にすがったのだろうと美枝子さんは考えている。

「あなたのおとうさんのおかげで、父は会社を建て直すことができた。お義父さんがグループ会社にしてくれたことで父も生き直すことができたと美枝子は言うんです。ただ、美枝子はそれを機に父との縁を切った。だから私も助かったんだ、と」

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