15年ぶり帰国で刑務所へ 「在日タイ人」がタクシン元首相を圧倒的に支持していたワケ

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若い世代からは批判の声も…

 しかしつい直前まで軍寄り政党に敵対していたタイ貢献党が、唐突に連立を組むことに批判がないわけではない。それは日本に暮らすタクシン支持者へも向けられる。旅行会社で添乗員として働き、しばしば日本に来るPさん(41)はこういう。

「日本に行くとたまに叔母に会います。彼女も日本での不法就労世代。タクシン派です。話していると、なにかずれている。いまのタイはもっと先に進んでいるんだけど。叔母は昔のタイのなかで生きている。こういうの日本語で浦島太郎っていうんでしょ」

 前出のJさんがこんな話をしていた。

「大学に通う息子と政治の話になると喧嘩になります。彼は前進党支持で、どうも選挙運動にもかかわっているみたいで」

 今回のタイ貢献党と軍寄り政党の連立に批判的な声もここに集まる。選挙になれば必ず第1党になるのがタクシン派だった。しかし今回の選挙で、はじめてその座を前進党に譲った。タクシン派政党の政策は農村の暮らしの底あげに貢献したかもしれないが、その役割は終わったという分析は多い。それを敏感に察知した同党は軍との連立に踏み切ったのではないか……と。

 日本の大学に通うタイ人留学生のCさん(24)はタクシンにも批判的だ。

「タクシンは帰国して、刑務所に入りましたが、軍寄り政権や国王派が恩赦で釈放というシナリオはできているといいます。彼はタイ貢献党にとって“天皇”のような存在。自分を守る条件が、タイ貢献党と軍寄り政党との連立だったんですよ。彼は釈放されたら、新しい政党をつくるのかも。タイ貢献党を捨てて……」

 そんな話を日本にいる不法就労世代に向けても、彼らは聞く耳をもたない。タクシンはいまだヒーローである。

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『沖縄の離島 路線バスの旅』『コロナ禍を旅する』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞最優秀賞。近著に『僕はこんなふうに旅をしてきた』(朝日文庫)。

デイリー新潮編集部

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