平和のために走るランナー・キプチョゲの名言の数々とは?(小林信也)

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 キプチョゲとは何者なのだろう?

 男子マラソンの最強王者エリウド・キプチョゲ(ケニア)の発言に触れると、彼がただ速いだけのランナーでないことが強烈に伝わってくる。

 実績はずば抜けている。2014年ロッテルダムマラソンから19年ロンドンマラソンまで出場したレースすべてに優勝、マラソン10連勝を飾った。これまで18レースに出場し、15回優勝。東京五輪男子マラソンの金メダリスト、2時間1分9秒の世界記録保持者でもある。非公認だが2時間切りに挑戦し(イネオス1:59チャレンジ)、1時間59分40秒で走破した。すでに定番化しているナイキの厚底シューズを世に広めた広告塔でもある。キプチョゲは、マラソンの記録を劇的に短縮し、シューズの形状も変えた歴史の変革者だ。

 さらに、年齢の限界をも破ろうとしている。東京五輪優勝時は36歳。翌22年3月の東京マラソンで2時間2分40秒、自己3番目のタイムで優勝した時は37歳。レース後、キプチョゲは言った。

「36キロすぎに飛び出したのは、いいタイムが出せていて楽しかったから。走ることに対する愛情で飛び出したのです」

 過去に聞いたことのない勝負を超えた内面性。彼が何に突き動かされて走っているかを感じさせる言葉だ。そしてつけ加えた。

「今日はありがとうございました。団結して平和をもたらしましょう。それができるのはスポーツしかありません。いま世界は困難な状況にあります。戦争を打ち負かしましょう。世の中には問題を起こす人と問題を解決する人が存在します。われわれは問題を解決する人のグループになりましょう」

 問題を起こす人と解決する人。単純明快な表現は、キプチョゲが見てきた世界の縮図を思わせる。

 キプチョゲは“走る哲学者”と呼ばれる。IOCのインタビューにはこう答えている。

「私は、走ることで世界にインスピレーションを与え、次の世代に、走ればもっと健康になれる、元気になれることを示したいと思っています」

 すでに38歳。11月に39歳を迎えるキプチョゲの現役生活の残り時間はもうそれほど長くないだろう。

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