小型人工衛星を量産、宇宙を当たり前の場所にする――中村友哉(アクセルスペース代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決】

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 昨年、今年とJAXAはロケット打ち上げに失敗、7月にはエンジンの燃焼実験で爆発事故を起こし、国産ロケットには暗雲が立ち込めている。だが小型人工衛星分野では、着実に開発が行われ、事業化も進む。そのトップランナーであるアクセルスペース代表に、宇宙ビジネスのいまと今後の展開を聞く。

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佐藤 この部屋に来る途中に通りましたが、ここ東京・日本橋のオフィスの一画で、人工衛星を作っておられるのですね。

中村 はい。ちょうどいま、来年頭に打ち上げる小型人工衛星を組み立てているところです。

佐藤 どのくらいの大きさですか。

中村 一辺が70~80センチで、高さ150センチ程度、重さは140~150キロです。

佐藤 小さいですね。これまでは主にロシアのロケット「ソユーズ」で打ち上げてきたと聞いています。昨年末にもロシアから打ち上げる計画がありましたが、ロシアのウクライナ侵攻で立ち消えになった。どんなやりとりがあったのでしょうか。

中村 ロシア側からキャンセルだと言われました。彼らもいろいろ模索したらしいのですが、いまロシアでは民間のロケットの打ち上げを行っていません。私どもとしても輸出許可が出ないだろうと考え、仕切り直すことにしました。

佐藤 では、いま作っている人工衛星はどうされますか。

中村 スペースXの「ファルコン9」に載せて打ち上げます。

佐藤 イーロン・マスク氏の会社ですね。決め手は何でしたか。

中村 定期的に打ち上げが行われていて、価格も安いのです。

佐藤 ソユーズよりも安い?

中村 ええ、5年ほど前まではソユーズの方が安かったのですが、スペースXが小型衛星向けの打ち上げを行うようになってから、価格がかなり下がりました。いまは欧州宇宙機関の「アリアン」なども、価格面だけでは競合できない状態です。

佐藤 学生時代からロシアのロケットを使ってきたそうですから、大きな転換点になりますね。

中村 そうなんです。ロシアから打ち上げていた私どもの小型人工衛星GRUSは、ソユーズに最適化するよう設計されていました。ですからそのまま別のロケットには載せられません。このため来年打ち上げの衛星では設計をし直し、さまざまなロケットに対応できるようにしています。

佐藤 ロシアでの打ち上げは、どのように始まったのですか。

中村 最初は、私がいた東京大学の研究室の中須賀真一教授が探してくださいました。

佐藤 「超小型人工衛星の生みの親」と呼ばれている有名な先生ですね。

中村 はい。中須賀先生が「教育のために大事だから」と、学生の作った小さな人工衛星を載せる枠を安価に獲得してこられた。たぶんロシア側の儲けにはなっていないと思いますが。

佐藤 それはいつ頃でしょう。

中村 最初に人工衛星を打ち上げたのは、2003年です。ロシアのプレセツク宇宙基地からでした。

佐藤 ロシアのロケットは古いですが、安定性があります。

中村 特にソユーズは千回以上も打ち上げ、ほぼ成功していますね。ものすごく信頼性が高いです。

佐藤 ロシアのロケット工学者ではコンスタンチン・ツィオルコフスキーが有名ですが、その前にニコライ・フョードロフという変わった人物がいるんです。

中村 初めて聞きました。

佐藤 ツィオルコフスキーはロケットや人工衛星の工学を切り開き「宇宙旅行の父」と言われています。でもそもそもロケットという概念を作ったのは、19世紀の終わりに図書館司書だったフョードロフなんです。

中村 へぇー。

佐藤 彼は『一般授業の哲学』という本を書いています。ここで、近未来にはさまざまな科学が融合し、アダムから現在までの死者を復活させることができるようになる。すると地上には土地も空気も足りなくなる。そこでロケットを作って、惑星間移動をしなければならない、と説いたんですね。これがツィオルコフスキーに大きな影響を与えた。

中村 それが原点なのですか、非常に興味深いです。

佐藤 ただし、その突飛な部分はずっと伏せられていて、ペレストロイカ後に知られるようになりました。当時、ロシアの思想家から「われわれの宇宙工学の基礎には、不合理なものがある」とよく言われたものですが、経済合理性ばかりを追求していないところがある。

中村 ロシアの技術者たちは、非常に人間味があるというか、とても仕事がやりやすかったですね。

佐藤 専門家集団には専門家集団の共通言語があり、国が対立していても、やはりどこかで通じ合えるところがあります。ロシアは国際宇宙ステーションで重要な役割を担っていますし、私は宇宙に関して米露は完全なデカップリング(分離)にはならないと思いますね。

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