「判断間違ってない」「謝罪しません」…起訴取り消し巡る国賠訴訟で証言した担当女性検事の正体 12年前との落差に驚き

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 大川原化工機(神奈川県横浜市)の冤罪事件で同社の大川原正明社長らが起こした国家賠償訴訟。6月30日には警視庁公安部の警部補から驚きの「捏造告白」が飛び出した。7月5日には大川原社長らを外為法違反容疑で起訴した東京地検の検事の証人尋問が行われ、彼女の口から「謝罪しません」という発言が飛び出した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

経産省は「不正輸出とするのは無理」

 2020年、大川原化工機の大川原社長ら同社幹部の3人は、「武器に転用できる噴霧乾燥機を中国に不正輸出した」との外国為替及び外国貿易法(外為法)違反容疑で、警視庁公安部に逮捕、起訴された。しかし、東京地検は、初公判の直前に起訴を取り消し。大川原社長らは11カ月月も勾留され、その間に胃がんが悪化した同社顧問の相嶋静夫氏は、勾留は停止されたものの治療が間に合わず死亡した。現在、大川原社長らは「違法な捜査だった」として国と都に総額5億6500万円の損害賠償を求めている。

 東京地裁の712号法廷前には、8時40分頃に到着した。開廷は午前10時だったが、既に廊下には十数人が並んでいた 。全42席のうち12席は司法記者クラブ用。傍聴席は30席。1週間前の警視庁公安部の警部補への証人尋問で「まあ、捏造ですね」という衝撃的な告白が飛び出し、注目が高まっていた。

 この日はまず、経済産業省の男性の職員と女性の元職員が交代で証言台に立った。女性の声は聞き取りにくかったが、大川原化工機の噴霧乾燥機が規制の対象外であることを警視庁の捜査官に「何度も伝えた」「非該当性の可能性を数多く述べた」などと話し、「警察が(立件に)熱心だったのでクールダウンしてもらう主旨だった」と説明した。

 この事件で経産省は当初、「不正輸出とするのは無理」と警視庁に意見していたが、立件を目指すその執拗な説得で次第に協力的になった。公判直前になって東京地検が起訴を取り消したのは、裁判長から警視庁と経産省のやり取りの記録を開示するよう命令され、そうした経緯が暴露するからでもあった。

検事は「今でも同じ判断をする」

 さて、この日のメインは午後からの検事2人の証人尋問だった。2人とも女性である。

 そのうちの1人、最初に証言台に立った塚部貴子検事は起訴を取り仕切った主任検事だが、彼女は警視庁の捜査段階からしっかりと関わっていた。

 塚部検事は起訴が取り消されたことについて「当時見聞きした証拠を元に起訴した判断が間違いだとは思わないが、起訴後に何が起きたかは真摯に受け止めていく」と述べた。

 警視庁では「生物兵器への転用の条件」を「完全殺菌ができること」としていたが、大川原化工機の噴霧乾燥機は温度が上がり切らない部位が残るなど「輸出規制品に該当しない可能性が高い」との情報があった。

「こうした立件に不利な証拠を確認すべきだったか?」と問われると、塚部検事は「不利な証拠があるとの疑義は持たなかった」と答えた。

「同じことになれば今でも起訴するのか?」と問われると、「当時、私が見聞きした証拠関係で同じ判断をするかと言われれば、同じ判断をする」と答えた。

 さらに、大川原社長らへの謝罪について問われると、「間違いがあったとは思っていないので謝罪はしません」と言い切り、原告の大川原化工機の幹部らが並ぶ席に向かって頭を下げることもなかった。

 法廷に立つ塚部検事を険しい顔で見つめていた大川原社長は閉廷後、「何とも言えないね。そういう人だったんだ。もしそういう人だったら、捕まっている人たちに対する尋問にしたって、そういう思いでやっている人と正しいやり取りができるわけがないですよ。本当のことを言いたいと思っている人でも、こりゃあ言ったら大変なことになるなあと思ってしまう」と感想を話した。

 高田剛弁護士は「あれじゃあ『これからも私は冤罪を作りますよ』って言ってるようなものでしょ。あんなこと言っちゃうんだ」とあきれた様子だった。実は、塚部検事と高田弁護士は司法修習生時代の同期である。それを知っていた記者が「だから今日は、あまり尋問しなかったんですか?」と問うと、「いやあ、後輩も育てなくてはならないので」などと笑っていた。この日は同じ和田倉門法律事務所(東京・大手町)に所属する若手の我妻崇明弁護士が中心に尋問した。

次ページ:12年前の「郵便不正事件」

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。