「判断間違ってない」「謝罪しません」…起訴取り消し巡る国賠訴訟で証言した担当女性検事の正体 12年前との落差に驚き

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12年前の「郵便不正事件」

 塚部検事はちょっとした「有名検察官」でもある。

 2010年、筆者は大阪で冤罪事件を取材していた。厚生労働省の局長だった村木厚子氏が大阪地検特捜部に逮捕・起訴された「郵便不正事件」の冤罪である。

 郵便物を安価に扱える許可証を障害者団体に違法に与えていたという容疑だった。部下の係長が上司だった村木氏の判を勝手に使ってやらかした犯罪だが、大阪地検特捜部は評判の高い有能な女性課長だった村木氏を逮捕して手柄を立てたかったのか、無理やり彼女の犯罪に仕立て上げた。その頃、塚部検事は大阪地検特捜部に属していたのである。

 だが、初公判後、特捜部の主任だった前田恒彦検事(懲戒免職)が起訴事実と合致しない証拠物件だったフロッピーディスクの日付を改竄。この事実を知った塚部検事は、特捜部の佐賀元明副部長(懲戒免職)に「公表すべきです」と迫った「正義の検察官」ということになっている。地に堕ちた大阪地検の中で、彼女一人が、ある種、正義のヒロインのようになっていた。実際、当時、「検察官はこうあるべし」などと塚部検事を称賛するブログの書き込みなどもあった。

12年前の冤罪事件での印象的な姿

 筆者は12年前、塚部検事を大阪地裁の法廷で見ている。前田検事の犯行を知りながらも隠蔽していたという「犯人隠避罪」で最高検に逮捕・起訴された大坪弘道特捜部長(懲戒免職)と佐賀副部長の公判に、塚部検事は証人として出廷したのだ。

 彼女は前田検事の証拠改竄を同僚から聞かされ、それを佐賀副部長に伝えたが、「『推測でモノを言うな』と言われて怒鳴り合いのようになった」「『改竄をもみ消すつもりですか』と言った」などと証言した。さらに、大坪部長に早く報告するよう求めると、佐賀副部長はためらう様子だったが「『もう部長に報告したから、外ではこの話はもうするな』と言われた」などと述べた。

 ちなみに、郵便不正事件は大阪地検特捜部による言語道断の捏造冤罪事件だったが(参考・拙著『検察に殺される』)、大坪氏と佐賀氏を起訴したのは世間の批判を受けた検察組織による「トカゲのしっぽ切り」だと考え、筆者は当時、彼らを擁護する記事を書いた。

 今回まさか、再び法廷で塚部検事の姿を見るとは思わなかった。

 大川原事件の裁判では、起訴を取り消した際の担当検事だった駒方和希検事が「検察が起訴後に行った実験で菌が死なず、立証困難になった」などと答えた。

 この日、起訴した塚部検事が黒、起訴を取り消した駒方検事が白の服を着ていたのは、何やら象徴的だった。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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