百貨店を「科学」して「個客業」へと進化させる――細谷敏幸(三越伊勢丹HD社長CEO)【佐藤優の頂上対決】

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百貨店を科学する

佐藤 細谷社長は「百貨店を科学する」と、さまざまなところで発言されています。それが今回の改革の基礎になっていると思いますが、いつからそう考えられていたのですか。

細谷 マレーシア時代からです。私は2000年より5年間、マレーシア・クアラルンプールの伊勢丹に勤務していました。それも3年もたつと、気になることがたくさん出てくる。そこで4年目に全体のプランニングをさせてもらったんです。

佐藤 何が気になったのですか。

細谷 ここに宣伝費を使っていいのか、外部委託費はこれでいいのか、あるいは用度費はこのままでいいのかなど、ありとあらゆることです。普段、単純なP/L(損益計算書)は見ていますが、その中でお金がどう使われて、どれだけ利益を出しているのかを細かく知りたくなった。

佐藤 それは経営者の視点ですね。

細谷 当時はまだ30代で上司も2人いたのですが、何でもやれるポストを作ってもらい、さまざま改革していきました。

佐藤 例えば、どんなことをされましたか。

細谷 マレーシアではタブロイド紙に広告を出していましたが、それは100ページ以上あるんです。そこに1、2ページ伊勢丹の広告を載せたり、チラシを入れても誰も見ない。そこで、現地で導入していたポイントカードを利用して、ダイレクトに情報を届けるようにしたのです。

佐藤 エムアイカードではなくて。

細谷 まだクレジットカードはそれほど普及していませんでした。それで名前と住所がわかるポイントカードを利用しました。

佐藤 ポイントがつくわけですから利用額もわかる。

細谷 そこへ直接情報をお届けしたことが「識別顧客」の原点です。「マスから個へ」という考え方は、マレーシア時代から取り組んでいました。その後、帰国すると、エムアイカードという、もっと便利なツールがあった。

佐藤 マレーシア時代の改革を日本でさらに深化していった。

細谷 マレーシアでも顧客層ごとにP/L管理をしたいという発想があったのですが、現地の計算システムではできなかったんです。それを岩田屋三越で導入しました。顧客をお買い上げの額に応じて分析し、それぞれどのくらいの利益があるかを数字で出すようにした。

佐藤 そこが「科学する」ですね。

細谷 その数字から、このお客さまからこんなに利益が出るのなら、ここにもっと宣伝費を掛けたりサービスを厚くしたりしようとか、利益率が悪いなら何か対策が必要だとか、課題がはっきりしてきます。そうすると、従業員もみんな自分なりに対策を考えるようになる。

佐藤 その結果、選択と集中が行われた。先のラウンジもその一つですね。

細谷 顧客別P/Lはお客さま全体から導き出せますが、すべてのお客さまを識別できるなら、もっと細かい接客が可能になります。また小売りだけでなく、幅広いサービスにもつながります。

佐藤 質の高い顧客のデータですから、それだけで高い価値がある。

細谷 そうです。だから単純に小売業で完結するのでなく、お客さまのさまざまな要望に応える「個客業」になりたい、と言ってきました。

佐藤 なるほど、小売業から進化させていくのですね。

細谷 もちろん百貨店は私どもの強みですので、今後も続けていきます。ただ、いまの百貨店を成り立たせている種々の仕組みを、小売業の百貨店だけで使うのは、非常にもったいない。

佐藤 カードビジネスもできる。

細谷 ええ、私どもには、カード、システム、人材派遣、不動産など、40を超えるグループ会社があります。これまで百貨店の補完的な位置付けでしたが、百貨店を再生させた後は、こうした会社でもきちんと利益を追求するようにしていきたいのです。

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