公安部警察官が「まあ、捏造ですね」「捜査員の欲でそうなった」前代未聞の証人尋問で明らかになった不正捜査の数々【大川原化工機事件】

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「直したふりをして署名させた」との証言

 6月23日の証人尋問で、大川原社長は「(取調官から)『黙秘すると不利になる』と言われ不安になった。銀行の取引停止や倒産、社員、家族のことが不安になった」などと証言した。

 亡き相嶋元顧問のご子息は「父は『何度説明してもわかってくれない』と言っていた。反省するどころか反論する国や都に心を痛めている」などと訴えた。

 島田元取締役氏は「安積さん(警視庁公安部外事第1課に所属していた安積伸介警部補) から『社長も相嶋も認めているぞ』と言われた」などと明かした。被勾留者が互いに連絡できないことを利用し、嘘を吹き込む警察得意の手法だ。

 さらに、島田元取締役は「調書の内容が違うので修正を申し出たがペンも貸してくれない。『修正する』と言ってパソコンのキーを叩いていたが、見せてくれなかった」とも証言した。事実でないことが書いてあった弁解録取書を見て、「『日本の警察はこんなことをするんですか』と言った」と怒り、紙を破ろうとして止められたことも明かした。

 島田元取締役は「警察や検察は自分らの公権力を誤って使い、無実の者を傷つけ苦しめ、時には人を死なせるという認識を持ってほしい。相嶋さんは無実を知ることなく他界された。ぜひ『ごめんなさい』と言ってほしい」と切実な思いを述べていた。

 高田弁護士が安積警部補に「島田氏が署名を拒否したことはあったか?」と問うと、「ありません」と答えた。島田元取締役の弁解録取で記録しなかった部分があったことを問われると、安積警部補は「客観事実と矛盾するので録取できない」などと答えた。何が客観事実かを調べるのが取り調べのはず。捜査の見立てに合わない都合の悪い供述は記録に残さない方針だったことを暴露していた。

 6月30日の尋問で時友警部補は、島田元取締役の弁解録取について、立会人だった巡査部長の話との違いを高田弁護士に問われると、「島田さんから訂正を求められて、直したふりをして署名させた。それに島田さんが気づいた、というくだりが抜けている」と答えた。ここまで同僚のインチキを暴露したことは驚くしかない。

 だが、捏造捜査は安積警部補の独断ではないはずだ。

「捜査報告書の内容は安積刑事が単独で決めて作成したのか?」と高田弁護士に訊かれた濵崎警部補は「宮園(勇人)係長の指示だと思う」と答え、「なぜそのように思うか?」という問いには「安積が報告書を部内で配布する時、『これが組織としての決定ですから』と言っていたから」としている。

 最たる階級社会の警察組織で、一警部補の力でこれだけ大掛かりな「でっち上げ捜査」ができるはずもない。まさに組織ぐるみの捏造だった。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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