「吉野ヶ里遺跡」石棺墓発見で“邪馬台国論争”が再びヒートアップ 歓喜する佐賀県民に、“畿内説”論者の反応は…

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福岡県朝倉市には「卑弥呼ちゃん」

 邪馬台国の存在については、「三国志」の一角・曹操が築いた「魏」の歴史を記した書の中の「魏志倭人伝」がベースとなっています。曹操の孫・曹叡の時代に邪馬台国から貢ぎ物が届けられたという記述があり、中国と日本の間にやり取りがあったことが示されているわけです。そして江戸時代に、「漢委奴國王」と記された金印が福岡の志賀島で発見されたことから俄然九州説がクローズアップされました。

 さて、これからこの論争はどこに着地するのか。すべては吉野ケ里遺跡の石棺に何があるのかに委ねられた形となりました。前述・奈良の専門家が「中から金印とか、極端な話“卑弥呼”と書いた物が出てこない限り、なかなか難しいのかなと」とハードルを上げてきましたが、これが本当に出てきたら「九州説」はもう決定的でしょう。まぁ、それでも近畿説を唱えたい人は「卑弥呼から属国の王がもらっただけだ」などと難癖をつけてきそうですが。近畿説を唱える人の主張は「その時代の前方後円墳がある」ことを頼りにし、九州説は「志賀島で金印が出た」「(福岡県朝倉市に)平塚川添遺跡公園がある」ことを根拠に挙げています。

 今回この論争に佐賀県が「九州説って言うても佐賀やけんな。そこんとこ間違えちゃいかんばい」と割って入ってきたわけですが、なぜここまで邪馬台国の場所が問題視されるかといえば、明らかに経済効果と地元住民のプライドが影響するからなんですよ。現在奈良県桜井市には「ひみこちゃん」、福岡県朝倉市には「卑弥呼ちゃん」がいて、町おこしに奮闘しています。

平和なケンカ

 一方、吉野ケ里遺跡がある佐賀県神埼市のゆるキャラは「くねんワン」と「くねんニャン」。昔の住居を頭にかぶった犬とネコで卑弥呼を主張するわけでもない。あくまでも吉野ケ里遺跡をPRしているだけです。仮に邪馬台国=佐賀が決定的になった場合、神埼市としても「ヒミコちゃん」というキャラを作ることになるでしょう。「ヒミコン」「ヒミコさん」「卑弥呼さま」などと桜井市と朝倉市とは異なる名前にし、両市を「ドヤ、ワシらが本家じゃガハハ!」とやる。いや、控えめな佐賀県民はそんなことはしないか……。

 ただ、この論争に決着がついてしまった場合は、こうした平和なケンカも終わってしまうわけですよね。世の中、命を賭けたケンカがあるわけなので、邪馬台国の場所をめぐるケンカで済むぐらいが丁度良いのかな、とも思うわけです。なので、佐賀説が有力になったとしても奈良と福岡の人・学者は自説を曲げず歴史の解明にさらに取り組んでいただきたいと思います。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。最新刊に『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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