中国が尹錫悦をムチ打ち始めた 米中半導体戦争で繰り出した「4つのNO」

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誰がハンギョレにリークしたか

――「4NO」をハンギョレにリークしたのは誰でしょう。

鈴置:「韓中関係に詳しい複数の高官級の外交消息筋」とあるので、韓国の外交部と思われます。親中派の巣とされる外交部とすれば、穴埋め問題で米国に加担するのは何としても避けたい。

 そうなれば中国との関係が決定的に悪化するからです。そこで「中国が本気で怒っている」証拠として「4NO」を持ちだし、国民を説得する作戦に出たと思われます。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権の時も韓国は中国に対し、THAAD(地上発射型ミサイル迎撃システム)配備に関し「3NO」を約束させられ、未だに縛られています。「あれをやるな、これもやるな」という形で中国に命令されることに韓国人は慣れています。

 なお、冒頭で紹介したハンギョレの「[独自]中国『習主席の訪韓、期待するな』…4つの不可方針を韓国に通知」によると、劉勁松アジア局長は「4NO」だけでなく「3NO」も守れと命じて帰りました。

「韓米日の安保協力を軍事同盟に発展させない」との条項に韓国が違反しかけている、とみなしたということでしょう。

――「4NO」には親米派が反撃しませんか?

鈴置:そこは微妙です。親米派といっても、中国と真っ向から対決する覚悟はありません。「[独自]中国『習主席の訪韓、期待するな』…4つの不可方針を韓国に通知」に面白いくだりがあります。

 中国の劉勁松アジア局長が訪韓した際、「大統領室の金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第1次長とも非公開で面会したことが分かった」と書いているのです。

 韓国では、金泰孝第1次長は親米路線の黒幕と見なされていまして、ハンギョレなど左派と親中派からしばしば攻撃されています(「韓国は中国から独立できるのか? 米韓同盟を『対北限定』に定めた尹錫悦」参照)。

 中国も快く思っていないはずです。「非公開で面会」と書けば、中国は黒幕を直接叱りつけて軌道修正させるつもりだな、と多くの韓国人読者は考えるでしょう。

馬脚を露わす尹錫悦

――韓国は親中派と親米派の戦いに?

鈴置:そこはまだ、分かりません。先ほど申し上げたように、親米派も中国と闘うつもりはないのです。それにもう、米韓同盟は修復できたし、日本との関係も表面的には改善の方向です。少々、中国側に戻っても米国は怒らないかもしれません。

――外交的な食い逃げではないのですか?

鈴置:J・バイデン(Joe Biden)政権も、下手に韓国を叱りつければ「なあんだ、米韓同盟修復はまやかしだった」と言われてしまう。多少のことなら目をつぶってくれるかもしれません。

 今、保守系紙も含め韓国紙には「次は中国との関係改善だ」との声が満ち溢れています。米国から怒られたら、対策はその時に考えればよい。「食い逃げ」「二股外交」と批判されようと、大国の間で小国が生き残る道はそれしかないのです。

――今後、尹錫悦政権は馬脚を露わすというのですね。

鈴置:その可能性が高い。馬脚は見え始めています。そもそも韓国という国に期待してはいけないのです。期待して騙されて怒る――という失敗の繰り返しから、日本人はそろそろ卒業すべきなのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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