作家・錦見映理子が「全身ピンク色の教師」から学んだこと ふと思い出して小説のモデルに

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自分の「好き」を貫き通して生きること

 彼女は担任でもなかったし、家庭科の時間以外に接点はなかった。虫の知らせがあるような、縁はなかったはずだ。

 でも、先生と私にはたった一つだけ共通点があった。ピンクが好きなことだ。40年前の入学式で変だと思った、先生の桜色のワンピースを今も忘れられないのは、本当はあの時、何となくわかったからだ。あの素敵な色の服を、どうしても着たかった気持ちが。

 いくつになろうがピンク色を着て何が悪いんだ、とあの頃先生が思っていたかどうかわからないけれど、私が書いた小説の中で、先生に似て非なる登場人物はそう思っていた。

 誰にどう思われようと、自分の「好き」を貫き通して生きること。それが私の初めて書いた小説のテーマになった。ピンクは鈴木先生の毎日を支え、私の人生を変えたのだ。

錦見映理子(にしきみ・えりこ)
1968年東京生まれ。小説家・歌人。『リトルガールズ』で太宰治賞。最新刊『恋愛の発酵と腐敗について』。

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