死刑求刑「長野4人殺害事件」 市議会議長だった父と母は、なぜ「息子の異変」を見過ごしたのか 専門家が指摘していた「特殊な親子関係」

国内 社会

  • ブックマーク

 今から2年前に長野県中野市で発生した、住民と警官計4名の殺害事件。青木政憲被告(34。事件当時は31)が、2023年5月25日、近所の女性2人に悪口を言われたと思い込み、ナイフで刺殺。通報で駆け付けた警察官2人も猟銃やナイフで殺害したという惨事である。

 この事件の公判が9月4日から開かれ、26日に結審した。弁護側は、被告が犯行当時、統合失調症による妄想に強く支配され、心神耗弱状態だったとして刑の減軽を主張。青木被告は黙秘を貫いていたが、最終日になって突如、「私は異次元の存在。人を殺して死刑になるために来た」と口を開いた。一方、検察側は、被告には妄想症の疾患があったが、事件直前までに普通に社会生活を送り、善悪の判断能力や行動をコントロールする能力は保たれていたとして、完全責任能力があったと指摘し、死刑を求刑した。判決は10月14日に下されるが、この事件では被告と両親との間の関係にも注目が集まった。

 被告は学生の頃から精神に異変が目立ち、周囲とトラブルを抱えていた。成人後も、その傾向は強まり、トラブルはより深刻なものになっていったが、両親は十分な対処を怠ったとの指摘が出ているのだ。実際、今度の公判で、被告側の情状証人として立った父は、「政憲のためにと思ってやったことがすべて逆の方向になってしまった」「もちろん政憲が悪いが、親が病気を見逃した。悔やんでも悔やみきれない」と反省の弁を述べている。ちなみに、被告の父は中野市の市議会議長でもあった地元の名士、母はジェラート店を切り盛りするフラワーアーティストだ。被告が「狩猟」「標的射撃」などの目的で許可を得、4丁の銃を所持することも認めていたが、その銃が凶器となったのだ。

「デイリー新潮」では、事件当時、青木家の「特殊な親子関係」を取材。専門家にも取材し、事件を未然に防げたかもしれない機会と、それが見過ごされた可能性について指摘している。子どもに異変が見えた場合、いかに早く察知し、危険な方向へ向かうことを防ぐかは、すべての親が知っておきたい事柄であろう。以下、当時の記事を振り返り、両親が犯した誤りとは何だったのか、考えてみよう。

(以下は、「デイリー新潮」2023年5月30日記事の再録です。文中の年齢、肩書等は当時のものです)

 ***

 殺人の疑いで逮捕・送検された青木政憲容疑者(31)は動機について、「(警察官から)撃たれると思った」や「“ぼっち(独りぼっち)”とバカにされてると思った」などと供述しているが、そういった事実はいずれも確認されておらず、「容疑者の一方的な思い込みだった」(取材を続ける民放キー局記者)とみられている。

 供述だけでは理解に苦しむ凶行の背景を知るうえで、地元の信濃毎日新聞が両親へのインタビューをもとに、容疑者の「31年の足跡」をたどった記事(5月29日付)が注目を集めている。

「両親によると、容疑者はすでに約10年前の時点で、周囲から“ぼっち”とバカにされることに不満を募らせていたといいます。さらに思い込みの強さや、周囲の視線に過敏に反応する性格がどう形作られたかを窺い知ることのできるエピソードも豊富です」(同)

 3人兄弟の長男として生まれた青木容疑者は幼少時は活発な子供だったとされる。母親によると〈幼稚園の園長から「多動児の傾向があるかもしれない」と言われたが、(父親の)正道さんは「子どもはそんなものだろう」と気にもとめなかった〉という。(※以下、〈〉内は信濃毎日新聞・同号より)

 専門家は、この時の対応に悔やまれるものがあると話す。

次ページ:東海大学に進学

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。