「第三者委員会」はあきれるずさんな後始末の“温床”か 東京五輪、企業不祥事、いじめ問題を取り巻く調査のワナ

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 不祥事の原因を突き止め、再発を防止したり、被害を回復したりするために設置されたはずの「第三者委員会」が、実は単なるメディア対策や禊(みそぎ)のためのツールと化してしまっている――前回の記事ではそんな衝撃的な指摘をご紹介した。

 数多くの第三者委員会報告書の格付け作業を行った会計のプロフェッショナルでもある八田進二氏は、作家・佐藤優氏との対談で、特に官庁の報告書には問題が多いと語っている。真相究明にはほど遠いものも珍しくないというのだ。

 一体なぜか。どうすれば第三者委員会は本来の役割を果たせるのか。

 佐藤氏の著書『国難のインテリジェンス』から、八田氏との対談をご紹介しよう(全2回の記事の2回目)。

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問題だらけの報告書

佐藤 (八田氏の著書『「第三者委員会」の欺瞞』の)第三者委員会の報告書のくだりを読むと惨憺たる有様ですね。ほとんど及第点に達していない。

八田 経営トップが自分に都合のいいメンバーを入れて、自分だけは免責してもらいたいという発想で作っている面がありますからね。

佐藤 格付け委員会全員が不合格のFをつけたのが、厚生労働省の「特別監察委員会」ですね。賃金や労働時間の動向を示す指標である「毎月勤労統計調査」で、本来とは異なる調査方法が用いられ、データに誤りがあることがわかった。これは国会でもずいぶん追及されました。

八田 この委員会にはまず「独立性」と「中立性」がない。委員長は慶應義塾大学商学部長も務めた樋口美雄氏ですが、厚労省から年間24億円の運営交付金をもらう労働政策研究・研修機構の理事長です。関係者への聞き取りも7割がた同省職員がやっている。もともと厚労省に内部調査チームがあり、それを横滑りさせたためですが、それなら「特別監察委員会」は名義貸しのようなものです。

佐藤 当事者の厚労省ファミリーで作った報告書ということですね。

八田 報告書の書式も官僚独特のものですし、内容も問題だらけです。「法令遵守意識の欠如」と何度か出てきますが、幹部職員までそれを欠いているなら組織の問題です。そこを追及していないし、その事実が伏せられてきたことも「本人が隠したつもりでないから隠蔽とは言えない」と、周囲に確認もせず、その証言をそのまま信じています。

東京五輪関連の報告書も不合格

佐藤 東京五輪招致活動に関わる日本オリンピック委員会(JOC)「調査チーム」の報告書も極めて低い評価でした。最低評価のDが6人、不合格のFが2人です。

八田 この報告書は「疑惑の隠れ蓑」として機能した典型です。東京五輪の招致活動の際、国際陸上競技連盟会長で国際オリンピック委員会(IOC)委員でもあったラミン・ディアク氏の息子が関係する口座に230万ドルを振り込み、贈賄が疑われたケースです。コンサルタント契約と言いますが、相場の2倍の額で、そのお金でどんなロビー活動がなされたかはまったく解明されませんでした。

佐藤 もともとロシアのドーピング問題を調べている際に出てきた話ですよね。ロシアのスポーツ界には強力なマフィアがいます。そことつながっているなら、この背後には恐ろしい闇が広がっています。

八田 報告書でも、関係者に突然連絡が取れなくなったとか、訪ねてみたら転居していたとか、安物のミステリーみたいな話が出てきます。結局、キーパーソンには一度も話が聞けていない。

佐藤 JOC会長だった竹田恆和氏も、実態は知らないのでしょうね。

八田 恐らく知らないでしょう。調査チームのメンバーも問題で、座長は弁護士の早川吉尚氏で、他に弁護士と公認会計士がいますが、オブザーバーとして当時のJOCの常務理事と東京都総務局審理担当部長が入っています。まさにこの問題の当事者です。結局、ここでは何も解明されないまま、IOCで禁じられている贈賄の認識はなく、日本の法律違反もないと報告書は結論づけています。

佐藤 招致活動に違法性はないと言いたいわけですね。

八田 このケースがさらに酷かったのは、報告書を公開しなかったことです。記者会見で一部メディアに配ったものの、JOCのホームページにも載せず、一般公開しませんでした。竹田会長が国会で「調査チームを発足させ、送金の流れを調査する」と言っているにもかかわらず、です。当初、私たちも入手できず、報告書の格付け委員会の中心である弁護士の久保利英明(くぼりひであき)氏がメディア関係者から入手できたことから、格付けすることができたのです。

佐藤 税金を投入して開催する五輪ですから、国民すべてがステークホルダー(利害関係者)のはずです。

八田 そしてフランスの検察が竹田氏を事情聴取したことが明るみに出ると、この報告書を引き合いに出し「日本の法律において契約に違法性はなかった」と釈明しました。まさに報告書を「隠れ蓑」に使ったのです。

真の第三者が必要だ

佐藤 それぞれを検証すると、第三者委員会を機能させるには何が必要か、見えてきますね。

八田 まずはきちんとした委員を選ぶことです。「第三者性」を考えて選ばなければなりません。私の専門の監査論では、第三者という言葉はキーワードです。独立性、公平性に加えて、専門性、倫理性も含めて第三者性と言います。

佐藤 第三者委員会は、大学が出す紀要に似ていますね。紀要は日本にしかなく、論文が掲載されるには、査読を経なければなりませんが、そこに第三者性はなく、いわばお友達の中で回していますから。

八田 その第三者性とともに大事なことは、情報開示です。報告書の開示はもちろんですが、第三者委員会の大きな問題は、報酬が開示されていないことです。どんな小さな委員会でも1億円近くのコストはかかるようです。事件の規模によっては、数億円から数十億円にもなる。

佐藤 だからビジネスになりうるわけですね。

八田 企業は不祥事で株価の下落などの損害を被った上に、第三者委員会設置のコストを負担するわけです。だからそれをちゃんと開示することで、ステークホルダーの信頼を得る必要があります。依頼主からお金をもらってその依頼主を調べ上げるのは、監査法人による会計監査も同じです。こちらは、有価証券報告書の中の「監査の状況」の項において監査報酬を開示することになっている。

佐藤 確かに時間単価の高い弁護士に加え、資料の読み込みに何人ものスタッフを使うからお金はかかる。ただ報酬は高くても、それ自体はかまわないでしょう。

八田 そうです。問題は開示です。会計を長くやっていて思うのですが、どんな厳しい法律や規則を作るより、開示は強い抑止力になると思っています。

佐藤 ベンサムやJ・S・ミルの言っていたパノプティコン(一望監視システム)による刑務所は、服役囚には看守が見えませんが、常に看守の視線を意識せざるをえない仕組みです。それと同じで常に見られているという意識を作り出すのが、開示の重要なポイントですね。

八田 もっと言うと、開示は民主主義の原点です。国民が正しい判断をしたり意思決定したりする前提として、正しい情報を適宜適切にきちんと公開しないといけない。だからこの第三者委員会が信頼に足るものになるかどうかも、そこに懸かっていると思います。

 全2回の記事の1回目【「第三者委員会」が信用できないワケ 東京五輪、企業不祥事、いじめ問題が解決しないのはその構造に問題があった!】からのつづき

『国難のインテリジェンス』より一部抜粋・再構成。

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佐藤 優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。作家。同志社大学大学院卒。85年外務省入省。外務本省国際情報局分析第一課などで勤務。2002年背任・偽計業務妨害容疑で逮捕。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』

八田進二(はった・しんじ)
1949年愛知県生まれ。青山学院大学名誉教授。慶應義塾大学経済学部卒。早稲田大学、慶應義塾大学の大学院に進んだのち青山学院大学で博士号取得。富山女子短期大学、駿河台大学を経て、2001年に青山学院大学経営学部教授、05年同大学大学院会計プロフェッション研究科教授。現在は大原大学院大学教授、金融庁企業会計審議会委員なども務める。八田氏がメンバーの第三者委員会報告書格付け委員会のHPはwww.rating-tpcr.net

デイリー新潮編集部