ブラック企業の上司から命じられ人妻を誘惑したばかりに…40歳夫が「公認の不倫」で恐怖を感じるまで

  • ブックマーク

Advertisement

「大人は腹黒い」とひきこもりに

 24歳だった彼は、会社は怖い、大人は腹黒いと感じてひきこもった。就職してすぐにひとり暮らしを始めたので、小さなアパートにずっとこもっていた。3ヶ月たって、ようやく徒歩10分の図書館に行けるようになった。だが、学生時代の友人にも顔を合わせることができなかったという。

「会社を辞めたことも負い目だったけど、自分が人としてしてはいけないことをしてしまったのが大きかったですね。自分を一生許せないと思った」

 だが一生、そうやってこもっているわけにはいかないこともわかっていた。1年たってようやく彼は近くの飲食店でアルバイトを始めた。体力が衰えていたのだろう、最初は数時間働いて帰宅すると、そのまま倒れるように寝こんでしまった。だんだん慣れていき、毎日働けるようになったのは半年過ぎてからだ。何もかも忘れたいと必死で働いた。彼の接客が気に入ったからとリピーター客が増えていった。

「その飲食店の大元である企業の本部の人がやってきて本部で働かないかと言われて……。自分を必要としてくれる人がいるのがうれしかったから、即、決断しました。前の会社を辞めてから2年、ようやく再就職できました」

押し切られる形で結婚

 再就職先で出会ったのが4歳年上の茉利さんだった。彼女は勇弥さんの指導社員で、その役目以上に親切にしてくれた。前の会社と違って風通しがいい社風で若い社員も多く、勇弥さんは生き返ったような気持ちになった。

「僕の仕事はエリアマネージャーの補佐でした。仕事はいくらでもあった。思い切り仕事をして帰りに同僚と一杯やって帰る。そんなごく普通の生活が楽しかった」

 そんな中で茉利さんとの距離もどんどん近くなっていった。彼女はあたかも自分が勇弥さんとつきあっているかのように振る舞う。周りはふたりが恋人同士なのだと推測している。勇弥さんはそう感じていた。うっとうしかったが振り切ることもできず、夜中に家にまで押しかけられてついに関係を持った。

「彼女のことが嫌いなわけではなかった。でも20代の男性らしく、対等な立場同士でごく普通の恋愛がしたかったんです。社内に気になる女性もいたし。だけど茉利からは逃れられない。そんな予感もありました」

 ぐいぐい来られると断れない性格なのだ。相手が指導社員ということもあって断固とした態度はとりづらかった。これも今ならパワハラなのかもしれないが、当時はそういう認識はなかったと勇弥さんは言う。

 結局、彼は28歳のときに茉利さんに押し切られる形で結婚した。同時に茉利さんは昇進して部署を異動したため、フロアも変わり、職場でふたりが顔を合わせることは激減した。

「婚姻届を出してしばらくしてから、職場の人や友人たちを招いてパーティをしました。僕はそれだけですませたかったんですが、茉利はどうしても親戚関係も紹介したいと言う。うちはほとんど親戚づきあいがないから両親と姉だけ、茉利のほうは父親のきょうだいが多いとかで、20人近くいました。茉利の父親の知り合いが経営する中華料理屋さんを借り切っておこなわれました。そこはもう茉利の父が仕切っていた感じですが……」

 勇弥さんはふと言葉を切った。そして「世の中、狭いですよね」とつぶやいた。

後編【妻の「いいわよ知っているから」に不倫夫の恐怖 踊らされていた?彼女の“血筋”がちらつく夫婦生活の行方】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。