韓国は中国から独立できるのか? 米韓同盟を「対北限定」に定めた尹錫悦

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「台湾独立」に反対?

――どちらが勝つのでしょうか?

鈴置:米韓首脳会談までは現実派が優勢でした。先ほど引用した朝鮮日報の「中国はなぜ韓国をないがしろにするのか【太平路】」が面白いエピソードを紹介しています。

 4月20日、韓国政府は「力による現状変更への反対は国際社会の普遍的な原則だ」として「不容置喙」発言に抗議しました。ところが当初、外交部――伝統派はろくに抗議するつもりもなかった。それを国家安保室――現実派がひっくり返して強い口調に改めた、というのです。翻訳します。

・韓国外交部は「国の格を疑わせる深刻な外交的欠礼」として久々に抗議した。当時の事情に明るい消息筋は「国家安保室によって完全に修正された姿勢」という。もともと外交部は「一つの中国との原則を尊重する」といったたぐいの婉曲な内容を準備していたということだ。

――現実派の完全勝利ですね。

鈴置:「力による現状変更への反対は国際社会の普遍的な原則」と、ようやく西側水準の対中姿勢に転じたのです。この時は現実派が伝統派を抑え込んだかに見えました。

 でも、肝心の首脳会談後に発表された米韓共同声明では、中国への姿勢は一気に後退しました。「台湾海峡」部分は以下です。

・The Presidents reiterated the importance of preserving peace and stability in the Taiwan Strait as an indispensable element of security and prosperity in the region. They strongly opposed any unilateral attempts to change the status quo in the Indo-Pacific, including through unlawful maritime claims, the militarization of reclaimed features, and coercive activities.

「台湾海峡」に関しては「平和と安定が安全と繁栄に重要」とあるだけです。昔ながらの軟弱な韓国の対中姿勢に戻りました。

「インド太平洋」に関しても「一方的な現状変更に反対する」であり「力による」が抜けています。仮に、このくだりが台湾海峡を指すとしても「台湾独立に反対」とも読める仕掛けです。中国は米韓の腰砕けに大笑いしたことでしょう。

NCGは対北限定

――現実派が負けた?

鈴置:この部分を「勝ち負け」で考えると分析を誤るかもしれません。現実派も「中国にケンカを売る」のが目的ではありません。米国との同盟が強固になればいいのです。

 今回の米韓首脳会談で、尹錫悦政権は米国の核の傘の強化に、ある程度は成功しました。共同声明とは別に、わざわざ核抑止力の強化を謳う「ワシントン宣言」を発出してもらいました。

 この宣言で韓国は核抑止を議論する「核協議グループ」(NCG=Nuclear Consultative Group)の創設と、核弾頭を搭載した米ミサイル原潜の韓国寄港を取りつけました(「尹錫悦を国賓として招いたバイデン 韓国を引き戻すニンジンは…半島波乱の幕開け」参照)。

「力による現状変更に絶対に反対する」といった尹錫悦大統領の強硬発言は、米国から核の傘強化を引き出すためのものと思われます。それなりの成果を挙げた以上、副作用を抑えるため対中姿勢をトーンダウンしてもおかしくはないのです。

――尹錫悦の韓国も「親米従中」を続けるということですね。

鈴置:その通りです。「ワシントン宣言」で創設が決まったNCG。これにしても協議の対象はあくまで北朝鮮の核であり、中ロの核は枠外なのです。

・The two Presidents announced the establishment of a new Nuclear Consultative Group (NCG) to strengthen extended deterrence, discuss nuclear and strategic planning, and manage the threat to the nonproliferation regime posed by the Democratic People’s Republic of Korea (DPRK).

口汚くののしらない中国

 ワシントン宣言に対する中国政府の反応が比較的穏やかなものだったのも、そのためでしょう。4月27日の中国外交部の記者会見で、報道官は北京日報の質問に答える形で「核不拡散体制を弱体化する」などと批判しました。しかし、中国が本当に怒っている時の口汚いののしりは使いませんでした。

「半島の非核化に真っ向から反するものであり、我々は強固に反対する」とも述べましたが、この部分はNCGよりもミサイル原潜寄港を指したと見るのが自然です。

 米韓が送った「NCGは北朝鮮限定」とのメッセージに対し、中国は「分かっているよ」と答えたということでしょう。中国は韓国、ひいては日本が核武装に走るのを最も警戒しています。

 中国包囲網にはならない対北NCGぐらいで韓国の独自の核武装を防げるなら安いもの、と判断したと思われます。韓国はワシントン宣言でNPT(核不拡散条約)の順守を約束させられました。

――結局、韓国は対中包囲網に加わらなかった。

鈴置:そうです。そこが大事なのです。韓国人は中国に立ち向かう気概がない。将来も持てないでしょう。だから、韓国にどんな親米政権が登場しても、日米韓が本当の意味でスクラムを組むことはない。組んだとしても「北朝鮮限定」です。韓国人が中国から精神的に独立するのは容易ではないのです。

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