韓国は中国から独立できるのか? 米韓同盟を「対北限定」に定めた尹錫悦

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親中派が出世する韓国外交部

――米韓同盟の行く末は?

鈴置:4年後に親北左派政権が登場すれば「北朝鮮限定同盟」でさえひっくり返されるのは確実です。尹錫悦政権の間も揺れ動くと思います。中国が真綿で首を絞めるように圧力をかければ、左派はもちろん外交部――伝統派も「離米従中」に動くでしょう。

――外交部が「離米」とは……。

鈴置:米国べったりの日本の外務省から類推すると間違えます。韓国外交部の実像を「中国はなぜ韓国をないがしろにするのか【太平路】」が率直に描いています。

・中国を恐れる「恐中症」は韓国外交の宿痾(しゅくあ)だ。これは前政権を経て悪性になった。THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)に関する「3NO」に反対した官僚は左遷され、中国の鼻息をうかがう一群が出世した。親中エリート集団は今も健在だ。
・数カ月前、国連で自由主義陣営の50カ国が中国・新疆ウイグルの人権弾圧を糾弾した時、韓国だけが足抜けするというとんでもないことが起きたのは偶然ではない。

 保守に有力な大統領候補が見当たらず、「次は左派政権」と見る人が多い。韓国の外交官もそれを考えれば、大統領が「親米」の旗をいくら振ろうが、ついていくわけにはいかないのです。

「サイダー」でゴマをする金泰孝

 そんな外交部にすれば、親米路線を主導する金泰孝第1次長が邪魔で仕方がない。米韓首脳会談を前に中国を怒らせる発言を大統領にさせた。大統領のそばにいるだけにいつ、同様の事件を起こすか分からない。彼さえ政権から追い出せば、親中派が主導権を握れます。

 実際、金泰孝氏は李明博(イ・ミョンバク)政権時代に「追い出された」ことがあるのです。青瓦台(大統領府)対外戦略秘書官として日米韓の軍事協力強化を目指し、日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)を主導しました。しかし2012年6月29日、調印当日に中国の圧力で頓挫。金泰孝氏は責任を取らされ、青瓦台を辞めました。

 冒頭で紹介した中央日報の見出し「『サイダー』のような外交、『麦茶』のような外交=韓国」」が外交部の空気を映しています。「スカッとする発言」を大統領にさせて国民の機嫌をとる学者出身の参謀。それに対し、「麦茶のような発言」を準備する外交部は大統領からも疎まれる――という不満の吐露です。

砂上の楼閣「米韓蜜月」

 韓国がいつ、中国に再びにじり寄るか――。日本は注視する必要があります。その一つのリトマス試験紙が金泰孝氏の処遇です。

 金泰孝氏が辞任した後の李明博政権は一気に反日の度を強めました。大統領の竹島上陸、天皇陛下への謝罪要求など、李明博政権の突然の変貌に驚いた日本人も多かったと思います。そして中央日報の記事は、金泰孝氏――現実派に対する伝統派の総攻撃の狼煙なのです。

――尹錫悦政権がしきりに「韓日蜜月」を演出したがります。

鈴置:それも要注意です。日韓関係は米中関係、ひいては米韓関係の従属変数です。「米韓蜜月」が砂上の楼閣である以上、「日韓」も極めて不安定なものだからです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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