渋谷のメンズ美容室に若い女性客が殺到 “逆転現象”はなぜ起きているのか

ライフ

  • ブックマーク

Advertisement

「可愛い」よりも「カッコいい」と言われたい

 いま「メンズ」を謳う美容室で逆転現象が起きている。女性はキラキラでまぶしいくらいのイケメンに、男性は女の子と見まごうような中性的で可愛い髪型になって、満足そうに美容室をあとにするというのだ。

 中でも、男性用の「メンズカット」を受ける女性客の増加は顕著だ。その主流の年代は、中高生からまもなく就職する若い世代の女性まで。メンズカットを施術した女性客のビフォーアフターをSNSで配信している美容室「LIPPS hair(リップスヘアー)」のデザイナー(スタイリスト)、石井里奈さんも「驚いている」と語る。いったいメンズ美容室で何が起きているのか?

 石井さんの在籍するLIPPS hairは、1999年オープンと、メンズサロンの源流の1つともいわれている美容室だ。彼女自身もメンズカットの技術に長けたデザイナーである。逆転現象が始まったのは2021年、当時注目され始めたInstagramのリールに、長く担当している女性客の動画を投稿してみたところ「バズった」という。

 メンズ美容室ゆえ、それ以前は顧客の9割が男性だった。しかし2023年の現在、メンズヘアにする女性客も少しずつではあるが割合を増やしている。

「メンズ、レディースの境界が曖昧になりつつあるからでしょうか。以前は男性がアクセサリーをつけたり、メイクをしていたりすると驚かれる向きもありましたが、今はあたりまえになっていますよね。女性も同じだと思います。『可愛い』と言われるより『カッコいい』と言われたい人、短い髪の方が可愛いと思う人が、当たり前のように増えたというか」

「推し」になりたい女性たち

 そんな女性客が「こんなふうにしてほしい」と持参するのは、石井さんが投稿したInstagramの動画や「推し」の写真。「推し」とは「人にすすめたいほど気に入っている人や物」のことで、アイドルや俳優、漫画・アニメのキャラクターなどがその対象となる。石井さんが女性客から見せられる推しの写真は、女性芸能人ではなく男性芸能人のものだ。

「よく拝見するのは、King & Princeの平野紫耀や永瀬廉、BTSのV(テテ)やジョングク、なにわ男子の高橋恭平たちの写真です」

 女性からのメンズカットのオーダーは、他のメンズ美容室でも増えているようだ。その一軒に女性客が髪色や髪型の参考として持参する写真を聞くと、石井さんが挙げた人々に加え、なにわ男子の長尾謙杜、FANTASTICS from EXILE TRIBEの八木勇征、INIの田島将吾、JO1の川尻蓮らの名前が挙がった。

 いずれも中性的な雰囲気を持つ男性芸能人だ。そのため女性でも真似しやすいのかと思いきや、真似ではなく「推しそのものになりたい」という願望があるようだ。

 石井さんは「推しのライブがあるので推しと同じ髪型、髪色にしたいという方はけっこういらっしゃいます」という。「推しが好むような異性」に変身するのではなく、「推しと同化したい」のだ。

 とはいえ、推しの有無にかかわらず「メンズカットにしたい」と思っている女性も少なくない。ただ、親に反対されたり、少しだけ勇気が足りなくてできなかったりする。そんな彼女たちの背中を押したのが、石井さんの投稿だった。

 映し出されるのは、彼女の手で“イケメン”になっていく、どこかが“特別”なわけではない女子中高生たち。自分もあんなふうになれるのではないか、と観ている側も元気づけられる。

次ページ:メンズカットとレディースカットは何が違う?

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。