「この仕事は天職」で常連客は60人超 還暦風俗嬢が明かす“人の心を掴む”方法

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なぜ60人以上の指名客をとれるのか

 現在、留美子目当てに店にやって来る「固定客」は60人以上いるという。その大半が「指名で通ってくれて20年」の客だそうだから、老舗食堂の趣である。業界の業種も、働く女性の数も倍々の一途を辿っており、出勤しても「お茶」(お客様に一人も会えないこと)で終わる女性が7割を超える世界であるにも関わらず、この人気には驚くしかない。

「なんで指名とれるのか? う~ん。強いて言えば私、記憶力、めちゃくちゃ良いのよ。来たお客さんのこと、話した内容、服装、全て覚えてるの。あとは『聞き役』になぜかいつもなるせいもあるかな。真剣に話を聞いて会話しないと、って思っちゃう。だから話だけで終わるお客さんが多いかな。愚痴言うところがないから、お店という“秘密の隠れ家”で吐きまくる。それもストレス発散できるじゃん。

 あと、私はキャストの時にはメチャクチャ嘘つきだよ(笑)。バツイチ子供ありのシンママという設定で、もちろん60歳じゃなくてサバ読んでる。だから、娘の制服とか値がはるものを買ってくれたりする人もいて、もはや娘の「タニマチ」みたいになってもらっている(笑)。わたしのお客さんには、結構、大きい会社の社長さんとか多いから。

 お店のスタッフからは『痩せたらもっとお客さん回せるようになるから痩せて』って言われてるんだけど、来るお客様からは『絶対に痩せないでね』って言われてるから、このままでいっか、って。今の子ってメチャクチャ細くてスタイル良い子ばっかりだよね。だから自分でも指名客の気持ちがよくわからない(笑)」

 給料は月に10日の出勤で月30万円ほどだという。ウン百万円を稼ぐ超高級店の嬢には比べられる額ではないが、43歳以上の風俗嬢の平均月収は「月7日出勤で18万2,000円」というデータもある(角間惇一郎『風俗嬢の見えない孤立』)。60歳という留美子の年齢を考えれば、かなり稼げていることがわかるだろう。生活水準はあげずに、稼ぎはすべて貯金に回したそうだ。

副業中も現役の視点を失わず

 しかも、である。

「さすがに体力が無くなってきたから、出勤を減らさなくちゃ、ってなって。何か副業できないかな、と思ってたら『うちの店の掃除、頼めないかな』とお店のオーナーから声をかけてもらったの。これまでそういう業者を雇っていたんだけど、知らない人間を店内に入れるのもなんだかな、と思ってたみたい」

 「店舗型」の性風俗店では、ビジネスホテルのように掃除を外部に委託するところもある。しかし、圧倒的に業者の数が少ないし、割高だ。ローションだらけのお風呂の掃除の仕方からして、「普通の掃除業者」とは勝手が全く異なるからだ。しかも、掃除は営業時間外に、行わねばならず、だいたい夜中の1時から、早朝営業が始まる「日の出」までの2~3時間のみだ。小型店でも10部屋はあるわけだが、条件に合う業者を探して依頼する手間やコストを考えれば、身内でまわしたいというのがオーナーの本音だろう。まして外部の人間を入れてしまうと、お客の情報などの秘密の漏洩のリスクがある。

 だから留美子は、「風俗店の掃除のおばさん」業もたまにしている。週に2日働いて月収は8万円だそうだ。ただし、掃除のときも“プレイヤー”としての視点は忘れない。

「面白いのがね、掃除で入ると『あ、この部屋、あんまり人気ない女の子が使ったな』とかすぐに分かるの。備品の使い方が雑だったり、いろんなゴミがあり得ない場所にあったりで。残された部屋を見ると、使った女の子の姿が想像できちゃうわけ。だからと言って私は何も言わないけどね。その子、その子によってやり方があるんだろうから。指名取れるようなヒント、教えてあげても損するだけだしね。ライバルを増やしてどうする、ってね」

 気負いすぎず、しかし、現役意識は失わない……高齢労働者としてのあるべき姿を、留美子に見出すこともできそうだ。

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』(コスミック出版)。主な著作に『売る男、買う女』(新潮社)、『東電OL禁断の25時』(ザマサダ)など。Twitter:@muchiuna

デイリー新潮編集部

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