茨城県が中国ではなく「台湾人旅行者」に力を入れるワケ “観光後発県”が投じるあの手この手

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 台北の地下鉄やバスが「茨城」に染まった。2023年の2月のまるまるひと月、台北を走る地下鉄の車両にラミネート広告が登場し、出勤客であふれる忠孝復興駅には、「開運茨城」の文字が躍り、イメージキャラクターとして台湾と日本のハーフとして現地では知られる渡辺直美の姿が溢れた。

 茨城は台湾華語では「ツーツェン」と読む。台北の人たちの多くはその地名を知らなかった。忠孝復興駅で電車を待つ人に訊いても、

「茨城(ツーツェン)ってどこ?」「日光があるところ?」「海があったっけ? 野菜が採れる所? 洪水が多いんじゃない?」

 といった頼りなさ。知っている街を訊いても、「つくば」「水戸」などの名前さえ出てこない。

 しかし、なぜ台北に茨城……。

 そこにあるのは、日本の地方空港が抱える実情だった。

「関東第3の空港」を目指すも…

 茨城空港が開港したのは2010年のこと。国際線は、アシアナ航空のソウル便だけというスタートだったが、その後、2012年3月から、中国の春秋航空の上海便が週6便体制で就航し、2015年には中国南方航空の深せん路線、2016年には中国国際空港の杭州路線、同年は春秋空港の成都路線が相次いで開設した。2018年10月からは台湾のタイガーエア台湾の台北路線、2019年に春秋航空の西安路線とつづいた。中国の青島航空は長春行、福州行、南京行といったチャーター線の運航をはじめた。

 当時の日本は、爆買いに象徴される中国パワーに湧きたっていた。茨城空港乗り入れ便も中国色が強くなるのは当然だったが、順調に増える就航便に、「成田と羽田に次ぐ関東第3の空港をめざせる」という声さえ聞こえた。

 首都の東京、成田国際空港がある千葉県、横浜・鎌倉・箱根などの観光地を持つ神奈川県……。これらに比べると茨城県は、関東圏のなかでは日本人でさえも観光地のイメージが薄く、「観光後発県」の汚名すら囁かれていた。それだけに県民の茨城空港への期待は高まっていく。

 しかし多くの路線が長つづきはしなかった。その一因はアクセスの悪さだった。

 茨城空港は、県の補助金を使い、東京駅から茨城空港まで国際線搭乗者のみ片道500円という直行の格安高速バスを運行させた。しかし便数や台数が少なく、中国人客を中心にした国際便利用者にすぐに買い占められ、「飛行機のチケットをとる以上に予約が難しい」と揶揄されるほどだった。

 この格安バスは、県内からの批判にも晒された。国際線利用者の多くが、茨城県を素通りして東京に流れ、県内の観光地や宿泊施設が潤わないのだ。茨城県は高速バス補助を打ち切ることになる。

 そこを襲ったのが新型コロナウイルスだった。国際線は次々に運休。週6便体制だった春秋航空の上海路線、さらに西安路線も2020年2月には運休する。国際線が1便も就航しない空港になってしまった。

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