必要な総額は8兆円? 財源論は先送りに… 「異次元の少子化対策」は国家的詐欺か

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産婦人科の訴訟リスク

 そうしたコップの中の争いをよそに、政府による少子化対策のたたき台には、自民党の大幹事長たる茂木氏への配慮も働き、与党提言のかなりの部分が取り入れられる結果となった。これでは政府も党も五十歩百歩。すべての政策を実現するのに必要な金額は、8兆円ともいわれている。

 中でも政策実現への困難が予想されるのが、出産費用の保険適用である。

 妊娠・出産は病気ではないため、これまで健康保険の適用外となってきた。数十万円かかる出産費用には、国から一時金が支給されており、この4月1日からは42万円から50万円に増額された。それでも、保険適用にすれば、個人負担の軽減につながるというわけだ。

「もともとは菅義偉前総理のアイデアで、岸田総理が“いいですね”と採用しました。しかし、出産の保険適用には医師会が反対しています。出産費用は地域によってばらつきがあり、それを全国一律の診療報酬に落とし込むには調整が必要だ、というのが表向きの理由です」(先のデスク)

 さる政府関係者はこう解説している。

「産婦人科は医師の希望者が少なく訴訟リスクもある。そのため自由診療で収益を確保することにより、優秀な医師を集めている。医師会との調整は時間がかかるだろう」

分娩をやめてしまう病院が出てくる懸念が

 2人の子どもを持つ産婦人科医の宋美玄氏によれば、

「出産費用の保険適用が実現した場合、出産難民が増加する可能性があります。都心部の出産費用が地方より高いのは人件費や場所代が高くついているからですが、保険適用になれば、そうした事情に関係なく、この診療は何点と決められ、都心の病院の収入は自由診療のときに比べて減ることになります。すると、固定費が高いため、分娩をやめてしまう病院が出てきてもおかしくありません。産む方の負担が少なくなることは望ましいとはいえ、慎重に議論すべき問題です」

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